最近、マスコミの「知らないふり」が増加している。マスコミは記者クラブを持ち、表現の自由に基づく取材の特権があり、取材に関する秘匿の権利も持っている。しかもかなり大きな資本力と団体の力(人数)で一般人よりかなり大きな力を持っている。

マスコミが「知らないふり」をした大きな事件を二つとりあげる。もちろんこのような「知らんふり」は毎日のように起こっている。

まず、「福島原発のメルトダウン」の報道だ。2011311日に事故が起こり、続いて爆発した。10日ぐらい経った320日には、原子力保安院の技術系、日本原子力学会、そして私たち原子力関係の技術者はそろって「原発はメルトダウンしている。下に落ちた核燃料は直径10ミリ程度だろう」と具体的なことも検討していた。

ところが取材をしているはずの報道機関はメルトダウンを報道しない。記者会見で「メルトダウンしている」と発言した原子力保安員の技術系の責任者が会見に出てこなくなったということもあったのに、報道しない。

ところが、5月中旬(確か15日前後だったが)、東電が「原発はメルトダウンしていた」と発表すると、翌日の新聞やテレビは「原発はメルトダウンしていた!」と大々的に報道した。

ちょうど、私は昼のニュース解説に出ていたので、アナウンサーが「メルトダウンしていたそうです!」とビックリした顔で言うので、どう答えて良いか躊躇した。つまり、アナウンサーは明らかなウソをついているのだ。すでに3月下旬には取材によってはっきり分かっていることを隠蔽し、東電が発表したら「初めて知った」という報道をする。

それが「ウソ」に感じないというのが新聞やテレビの異常さを端的に示している。事実を知っていても(この場合は、原子力保安院、原子力学会、そして専門家が口をそろえて言っているのに、政府、東電などが公式に発表しない事実)、公的な発表がなければ「知らないふりをする」ということをすべての報道機関がしたのだ。

仮に、パニックが起こるから報道を控えたというのであれば、5月中旬に東電が発表した時に「マスコミも知っていたが、報道を控えていた」と報道すべきだ。この嘘つき体質は、「ウソと思わないでウソをつく」ということではかなり重傷で、「スタジオや紙面に書くときには知らないそぶりをする」ということが定着している。

私は利害関係もないので、人を非難することなどは別にして、ありのまま学問的に発言するということをスタジオでも執筆でもやっているけれど、「正直ですね」といわれる。別に正直と言うほどのこともない。ウソをつかなくても良いことをそのまま言っているに過ぎないからだ。

でも、取材で分かっていても公的な発表がなければ報道しないというには本当に報道機関なのだろうか?表現の自由や取材の特権、電波使用の権利など必要なのだろうか?

(平成27930日)