人間は果物を食べるけれど、どの動物も食べるわけではない。たとえば果物には豊富にビタミンCが含まれているが、仮に、ある動物がビタミンC(アスコルビン酸)を必要とするなら、それは自分の体の中で合成するのであって果物を食べるのではない。

人間がビタミンCを食物からとるのは、サルの時代に木に登って果物ばかり食べていたので、体内にあるビタミンCの合成工場を止めてしまったから、今の人類はビタミンCをとらなければならなくなっただけだ。人類以外でもビタミンを合成できない動物は多い。

だから人間は果物が美味しい。もしサルが果物を食べずに私たちの体にもビタミンCの合成工場が残っていたら、おそらく果物は美味しくないだろう。シマウマは草を美味しそうに食べるし、ヤギや紙ですら食べる。人間は草のセルロースを消化することができないので、美味しくない。

(注)本来はウマやウシもセルロースを消化できない。草食動物はまず歯で細かく砕き、ウシは反芻、ウマは後腸で細菌の力で消化する。

人間が草を食べても味も素っ気も無いのは、「これは自分の体に必要ない」ということが分かるからで、そのために「味覚」というものがある。私はここ20年来「なぜ、美味しいものが有害なのか?」を調べたり栄養の専門の先生に聞いたりしてきた。主に、「スイーツ」、「油」、そして「辛いもの」の3つを調べてきた。

女性がケーキを食べている姿を見ると、美味しそうで、果物を食べている時と同じように見える。でもケーキは健康によくないが、果物はよいというと奇妙だ。味蕾で味を感じる意味が無くなる。

こう言うと、すぐ反論が来るだろう。「果物が酸っぱくないから女性が喜ぶ。ミカンが酸っぱいときには女性は食べなかった」・・・確かにそうで、現在の女性が果物や野菜が好きなのは品種改良が進み、甘い果物や野菜が出てきたからでもある。

もちろん、生野菜は化学肥料と農薬のおかげで食べることができるようになったもので、今から50年ほど前までは、第一に野菜が苦くて美味しくなく、第二に非衛生的で食べることができなかった。

そうなるとどうも「砂糖、油、塩」の味覚と健康の関係がもっとも大切であることが分かる。しかし、現代の感覚ではいずれも「悪いもの」とされている。この理由を20年ほど前に栄養学者などに聞き回ったら、「砂糖は15世紀ぐらいから、油は高かったから、塩は手に入らなかったから」という説明を受けて納得していた。

医師に聞くと、根源的な回答がなく、いずれも「食べると病気になるから」ということだったが、後に、栄養学者も医師もあまりデータによっているのではなく、感覚、常識、空気、個人の好みで言っていることが次第に分かってきた。

「新鮮なものが美味しいというのは、人間が腐敗したものを食べないように味覚ができている。それなのに、砂糖、油、塩を取り過ぎても危険というのはどういう理由か?」という質問に答えた学者はまだいない。

動物の五感(触覚、臭覚、視覚、聴覚、味覚)は自分を守るためにある。だから、動物の多くは「草原の草が豊富でも肥満したシマウマはいない」ことや、「飽食させると甘いものが好きなラットでも砂糖水を飲まなくなる」と言う研究などで裏打ちされている。このような具体的な観察や研究に匹敵するものが「砂糖、油、塩」に関しては存在しないように思う。

つまり、「砂糖を食べると糖尿病になる、油を食べるとコレステロールがあがる(間違い)、塩をなめると血圧が上がる(必ずしも正しくない)」というのは一つ一つの独立した現象であり、総合的なつじつまを考えていない。だから今回のコレステロール・ショックが起こっている。

私たちは、心臓(血圧)、合成能力(コレステロール)、味覚(砂糖、油、塩)を信用してみたらどうなるだろうか? 私たちの体はそれほどダメなのだろうか?

(平成27612日)