若い頃、といっても30歳代とおもいますが、私は中央公論社から出ていた「世界の思想」というシリーズの本を買い込んで読んでいました。その時に、それまで接したことがなかった旧約聖書とかギリシャの哲学などとともに、近世イギリスの思想家、ホッブスの「リヴァイアサン」にも接したのです。

さすがアングロサクソンの政治哲学者だけあって、その論理的な展開はとても刺激的で、今でも「尊敬する書籍」の一つですが、その中に「バカ殿がいるときには臣下はどうするか」というようなことがあり、それを読んで私は「人間の思考の範囲」を考えるきっかけとなりました。

次に、ヘルムホルツというドイツの大学者が大学を退官するときに書いた随筆を読んで、「晩年、太陽がなぜ光るかを研究したが挫折した」ということを知り、「人間の考えることはあらかじめ人間の頭にある知識からしかない」という当たり前のことに気がついたのです。

キュリー夫人が原子核反応を発見する前ですから、彼の頭の中には原子核エネルギーというものが無かったのです。

現在の人間が分かっている知識というのが「宇宙のすべての知識」の1%としますと、私たちはその1%の知識で考えている訳ですから、私たちの考えの99%は間違っている可能性が高いのです。

トルストイは「戦争と平和」という小説を通じて「人は歴史の子だ」と言っているように思います。私たちが正しいと思うことは、正しいのではなく、「今はこう考えられる」と言うことに過ぎないのでしょう。

(平成27418日)