日本社会はもともと相互扶助で人情があつく、とても良い社会でした。そのことは今から150年ほど前の幕末に、鎖国がとけて外国から来た人が一様にびっくりしていることです。
しかし、ひどい今は社会になりました。2014年(昨年)、90歳を越える認知症の夫が徘徊中にJRに敷かれて死亡した事件で、「家族の監督が不行き届きだった」という理由で裁判所は、これも90歳を越える妻に700万円ほどの損害賠償の判決を出したのです。
事件をブログに書いて、90歳を超えて700万円もの賠償請求をするJR東海はどういう心をもっているのか?(保険か何かの対策はないのか)と書いたら、若い人と思われる読者から、「死亡事故で大きな損害を受けたのだ。年寄りは死ね!」というような内容の反撃がありました。
「損害を受けた」ということと、「家族が疲れ果ててちょっと目が届かない時に外に出た老人がひかれて死ぬ」ということを調和できない社会、そんなギスギスした日本にしたのは私たちのように思います。
高齢者(法律的な年齢ではなく、年をとった人)が半分にもなろうとしている現在、どうやら日本は国民を安心させてくれる政府はなく、中国並みの自衛社会になったようです。その中で「認知症」を避けることはとても大切なことです。
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認知症はその原因物質が40歳代から脳に蓄積し、その後、70歳ぐらいで発病するという感じの病気ですが、本人も家族もとても辛い生活が10年以上、続きます。そこで「認知症の予防」というのは大切なことです。
体を動かさなければ筋肉が衰えることは誰もが知っていて、寝てばかりいれば骨が細くなることも承知しています。でも、多くの人は「頭を働かせなければボケる」とは思っていません。
それは頭を使うというのはやや疲れることですし、あまり楽しいものではありません。できるだけ頭を使わずにボーっと生きていけるのが良いように思います。でも、体を動かすのも、立っているのも人間にはつらいことですが、「少し辛くないと健康な人生を送ることができない」というのも事実です。
専門のお医者さんと対談する機会が複数あり、自分も勉強してみると、認知症を防ぐ第一のポイントは「毎日、少しでも良いから頭を使う」ということがよくわかりました。この頭を使うというのは、新聞を読む、講演を聴くなどほんの少しでも「自分にはむつかしいな」と思われることをすることのようです。
人間には楽しみが必要ですから、テレビのバラエティー番組で大いに笑ったり、お酒を飲んだりするのも良いのですが、それとともに「ちょっと頑張る」ということも必要なのです。
「武田先生も高校時代と同じように勉強していますか」と聞かれてビクッとしたものです。
第二に「満腹しない」ということも必要です。人間は「ストレスのない状態」や「ストレスが過剰な状態」は危険で、「適度なストレスがかかる状態」が望ましいことはよく知られています。つまり緊張感や辛さ、軽い生命の危険などがあると、生物は自分を守ろうと自衛のための物質を出して守ります。
あまり良い例ではないのですが、私が医師の方とガンの治療を研究していた30代の頃、ウサギをガンにかけて血中から制ガン物質を分離したことがあります。その経験では、ガンになっていないうさぎの血中には制ガン物質があまりに少ないので、分離することができないのですが、ガンにかけると分離するぐらい濃度が濃くなるのです。まさに「自衛反応」で、これを「ホルミシス効果」ということもあります。
ラットで「飽食させて飼育」のグループと「腹八分目の飼育」のグループを作ると、飽食させて飼育したラットは死ぬかなり前からボケる(ゲームを間違えるようになる)のですが、腹八分目のラットは死ぬ寸前まで頭も明晰なのです。
これは、「どうも食事が十分ではないので、いつ飢餓に陥るかもわからない。しっかりしないと」と思っているからと考えられています。
つまり認知症防止のもう一つの方法は、「自分を少し危険な状態にあることを体に伝える」ということで、その意味でも「腹八分目」が良いのだと思います。「目標を持って生きる」や「ハングリー精神」も同じで、何かを成功したら・・・という感じではなく、人間は目標があったほうが元気だ・・・という感じでしょう。
(平成27年2月11日)