「低カロリーはヘルシーか」という記事を書いて読者の方から興味ある反論をいただいた。また偶然、本日、ある小さな図書館で本を読んでいたら、「過食と拒食」について2冊の本があり、とても興味深かった。

このことと、医学雑誌で読んだ「シマウマはなぜ太らないか」ということと3つの情報を元にいろいろ、考えてみた。とても面白い。今回は拒食症の整理をしてみた。

拒食症や過食症という摂食障害が社会で問題になるほど増えてきたのはヨーロッパでは1960年代から、日本では1970年代からである。この時期はヨーロッパ、日本ともに高度成長期に当たっているが、そこでどのような変化があったのか、それと個別の拒食症や過食症の患者さんたちの研究と合わせて、この2つの疾病の主な原因は「ダブルスタンダードによる避け得ないストレス」であることが推定されている。

私が摂食障害の2冊の本を読んだ感じではかなり確実なような感じだ。もとより生きるか死ぬかのギリギリの食事しかとれなければ、拒食症も発生しないが、経済成長が終わり、エンゲル係数が低くなると、食事をとろうと思えば採れる環境になるので、そこでさまざまな異常が発生する。

不幸なことに、ちょうどその時期に女性に対して、従来からの「女性らしくしな さい」という規範と、「男性と同じように働きなさい」という指導が同時に行われ始めた。女性が二人の子供を産むために損失する時間や労力はとても大きい。 さらにその後の育児や家庭のことを考えると膨大な努力と我慢がいる。

それは従来から「女性らしく」という中に入っていて、服装、お化粧から始まっ て、立ち居振る舞い、家族の世話、食器の片付け、洗濯、買い物に及ぶ。仮に夫にその意思があっても、「汚くてもよい、だらしなくてもよい、栄養など適当に 取れば良い」という男性の考えとは違うので、そこにはストレスがかかる。

私も女性と一緒に食事をとるとき、女性が私のお皿に料理をとってくれるが、私 にとってはイヤなことだ。かならず「自分でやります」といって断るが、周囲の目などがあって女性はなにかやらなくてはという感じがある。このような社会的 風習はすぐには変わらず、時間がかかるものだ。

また、今の40歳から上の女性の場合、父親から「お前は女だから高校でたら勤 めろ」と言われて進学を諦めたり、自宅に郵送されてきた入学許可証を親が捨ててしまうというケースもあった。そんな女性が突如として、「男と同じように」 などと言われてもどうしようもない。変化は徐々にしかできない。

しかも、女性で恵まれていて、才能も体力もある人が「女性も男性と一緒に。私 もそうしてきた」などと言われるのでさらに困ってしまう。このダブルスタンダードは女性の心に大きな負担を与え、それを克服できる人は良いが、克服できな ければ拒食症などになってなんとか苦しみから逃れようとする。

最近の社会はダブルスタンダードが多い。それは総合的に見て判断するのではな く、自分の利益、自分の人生などだけから短絡的に発言する「識者」がいるからだ。ダブルスタンダードを平気でこなすような利己的で傲慢な人ならそれでも良 いが、日本という宝を守っているのは、ダブルスタンダードに耐えられない人で、その一例が拒食症なのである。

肥満もほぼ同じ原因だが、毎日のようにテレビで「美味しいもの」を紹介し、片方で「ダイエット番組」を始める。食欲を増進させておいて、食べるなというのだからひどいことだが、両方とも視聴率が採れるというので放送する。

この社会には本質的に誠実で、ダブルスタンダードを受け入れられない「正しい 人」がいることを真剣に考えてもらいたいと思う。最近、「悪い人が良い人をバッシングする」ということが多いように感じているが、この場合もダブルスタン ダードが平気な人が、ダブルスタンダードを受け入れられずに苦しんでいる人をバッシングしているように感じる。

(平成261212日)