NHKの温暖化報道は言うまでもないが、膨大な数のセイウチがどこかの海岸に打ち上げられたからといって「温暖化」と騒いでいる番組があった。またこのブログでもとりあげたが、元気象庁長官が「温暖化で台風が10月にも来るようになった」と連呼した例では気象庁予報部からデータを示して温暖化と台風の関係がないという論文を出しているにも関わらず、二枚舌(学問的には関係ないと言い、国民には関係しているという)を使った。その元長官を頻繁に出したのは報道だった。
先日、あるNHKの元アナウンサーがある事件の報道をめぐって、「入社したとき、政府に批判的であれ、国民に阿るな、と繰り返し言われたことを思い出すと、心の抵抗があった」と言っていた。そうか、NHKもかつてはそういう時代もあったのか、私がNHKを信用していた頃、現場ではそういう教育も行われていたのか、と思ったものである。
報道の存在意義は、むやみに政府に批判的であるというのではなく、政府の政策を正しく伝えるとともに、利権の闇、不誠実な言動、利己的な政策など、記者クラブに所属し、つねに政治のそばにいるからこそ国民の代わりに得られる情報をそのまま国民に伝えることは報道の基本でもある。
また同時に国民におもねてもいけない。視聴者は国民だが、たとえば視聴率が上がるからといって深夜に女性の裸の番組(かつて全裸の女性がスタジオに登場するものもあった)やスキャンダルだからといって個人の人権を損なうような報道は控えなければならない。
つまり、報道は「テレビや新聞という公共性のある情報提供」であるから、「一定の見識、批判精神、文化的レベルの高さ、人格」などが感じられないといけない。特にNHKは受信料を強制的にとるのだから、払った方はいわば「見るのを強制される」ことになる。お金を払って気分が悪くなる番組を見させられるのは精神的に苦痛だから、絶対に「ウソや間違いはダメ、政府の通りはダメ、公序良俗に従う」ことは当然でもある。
このような本来の報道のありかたから言うと、1990年代から始まった「環境報道」や「温暖化報道」は目に余るものがある。朝日新聞の慰安婦報道を批判している新聞も、ほぼ同じことをしている。
ここでその全てを指摘することはできないが、一つ「家電製品のリサイクル」について報道の弊害が何をもたらしたのか、はっきりしておきたい。
「リサイクルしないと廃棄物貯蔵所が満杯になる」(ウソ)という話をまずでっち上げて、「家電もリサイクルしなければならない」(ウソ)へと発展する。リサイクルすると資源が理論値で3.5倍、実績で7倍余計に使う(エントロピー増大の原理に合致している)ということがわかっていたが、経産省は「家電メーカーを儲けさせる良い手段」と考えて、家電リサイクルを始めた。
この時に経産省幹部が「家電リサイクルのような不合理なシステムをやれるのは世界でも日本しかない。官庁の指導、業界の団結、報道が揃っているから」と言った。それまで家電の回収費用は一台平均500円だったのを平均3000円にあげる、それを閉鎖的な決定機関を作って家電メーカーの儲けになるようにする、中古で売れるものは中古価格で買い取るのではなく国民に廃棄料を払わせて売るというダブル取りをする、それを「資源回収」という名のもとで行う、と決めた。
報道はこの内情を知っていたが報道せず、かえって「廃家電が山野に廃棄されている」という方向に行った。つまり500円が3000円になったので国民が家電を山に捨てるようになったのだが、その不正を報道せず国民をバッシングした。これにタクシー会社が「正義の味方」とばかり「パトロール」を行った。
かくして3000円-500円=2500円が家電メーカー(家電リサイクル会社)、天下り先の管理会社などに大量に流れ、膨大な利益を出した。さらに、環境省や経産省が「省エネ家電への補助金」を出し、日立などの一流家電メーカーが材料を偽って「環境大賞」を受賞した。冷蔵庫もクーラーもどんどん買い替えられ、それに補助金(やがて消費税の増税につながる)がついた。
その結果、何がおこったのか? それが日本の家電メーカーの崩壊だった。かつて日本の産業のプライドだったパナソニック、ソニーといった優良会社が軒並み赤字に転落している。実に悲惨なことだが、これは経産省などの「国民のお金」を「不労所得」として得ていたことが「技術革新、ビジネスモデルの刷新」に対する意欲を失わせ、没落したのだ。
社内では技術開発で世界に誇る製品を作って収益を得たいという正統派に対して、主として文化系の幹部が「そんな苦労をするより、俺が経産省から金を取ってくる」と言って天下りを餌に補助金を貰う。それは結局、世界に劣る製品を作り続けることになり、あれほどの収益を誇ったパナソニック、ソニーの崩壊になった。
国民の税金を使い、増税し、環境を破壊し、そして当の家電メーカーが崩壊する。今から10年ほど前、ある家電大手の会社が私の講演をドタキャンしてきた。耳の痛い事実を聞いておけばまだ良かったのかも知れないが、それはもう没落する家電メーカーには無理だったのだろう。
しかし日本家電の再生のために、今からでも家電リサイクルの中止、エコ家電の補助金の廃止などをやって「本当に素晴らしい製品を開発して売る」という原点に経てば、日本の技術人の力で再び繁栄することができる。世界は順番に発展していくので家電の需要がなくなることはなく、日本の技術力は世界一だから。
でも、日本を信じず、役人の天下り先を作り、日本の財産だった家電産業を潰した「環境政治家」にはこの際、引き下がってもらわなければならない。
(平成26年11月16日)