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原因: 日本国民の年齢分布の変化と国民の理解不足
結果: お金だけしか頼れない、昔より不安定な老後
仮装化:仮想的な年金だけが存在し、不安で貯金するので消費税が上がる
崩壊: 安心である程度ではあるけれど豊かな一生

2010年の時、2050年 の日本の人口分布(何歳がどのぐらいいるかという基本的な数値)は詳しく推定されている。その国の人口分布というものはどんなことを計画するにしても欠か せない数値なので精密に計算されている。学校の建設、教員の養成数から始まって産業での人の問題、高齢者医療などすべてのことに「人口分布」が関係してく るからだ。

そして、結核、戦争、貧困が解消された今から50年ほど前(1960年代)には高度成長が始まり、工業化が進み、人口分布の変化、家長制度の廃止と新しい家庭像が推定されるようになり、「将来の日本の高齢者のあり方」が定まった時代だった。

それまでは若い人が多く、老人が少ない社会だった。おおよそ言えば、100万人の人が生まれると40歳ぐらいまでに半分死に、長く生きる人が80歳で終わりになるという感じだ。ちょうど、人口分布の図がピラミッドのようになるので「ピラミッド型人口分布」と呼ばれていた。

し かし、医療や栄養状態が良くなり、平和になることによって国民がより強く健康や安全を志向するようになると、当然、長寿になる。一方、戦争が終わると民族 として子どもを産む意欲が欠けてくるので少子化になり、ピラミッド型から「長方形型」(ある年齢を切り取ると、その歳の子供も60万人、老人も60万人のような感じ)になる。

また、明治以来続いた家父長制度が廃止され、「家」がなくなって「個人」になると子供が親を扶養しなくなるので、定年後のお金を生活を国が保証しなければならない。そこで1961年からすべての国民を対象とする「年金制度」が始まった。

年金の構造は次の3つがある。
1) 積立型:一人の個人が若い頃積み立てて、老人になったら積立金をもらう。
2) 賦課型:若い人が年金を払い、その年のうちに老人に渡す。
3) 税金型:年金と税金を区別せずに税金のうちから年金を拠出する。

こ のようなシステムを作るのは、「老後のお金を個人で貯金しておくことはむつかしい」からだ。個人で自分の老後を保証しようとすると、自分がいつ死ぬかわか らないし、どのぐらいの病気になるか、社会がどう変わるか、インフレになるかなどいろいろなことを考えなければならない。そして一つ一つにかなりの幅があ るので、高額の貯金をしてもまだ不安だ。なかには若い頃から計画的に老後の貯金をしない人もいて、その人が野垂れ死するような社会も問題だ。

と ころが社会全体で老後に備えると、平均寿命で死ぬとすればよいし、治療に要する総医療費もわかる。問題はインフレぐらいで、あとは問題がなくなる。だから 社会制度としては個人より政府が関与して年金制度でやるのが適当で、その次が税金で社会保障の中に入れてしまうということだ。

積立型の場合は大きな欠点が二つある。一つは国民が積み立てたお金を「どこにしまっておくか」ということで、現実にはお金をしまうところもないし、40年間も安定した投資先もない。第二には、インフレが起こるので最初に積み立てたお金はインフレ率をカバーできる投資先に投資しなければならないが、それはリスクがある。

1950年代に制度設計をした当時の厚生省の年金課長は「日本の年金が崩壊する」ということがわかっていて積立型年金でスタートした。なぜ彼は「崩壊するのがわかっているのに年金をスタートしたのか?」を理解しておく必要がある。

崩 壊すると予想したのは、第一に積み立てたお金が数10兆円になるので、政治家をはじめとして多くの人がそのお金を狙うので、防ぐことができないというこ と、第二にインフレが起こるから「貯めたお金の分だけ返すことができない」ということだ。現実にはそれに加えて、集金とお金の管理に慣れていない社会保険 庁が「記帳漏れ」、「徴収漏れ」を連発したという事情もあった。

か といって、賦課型もうまくいきそうにはなかった。近い将来、少子化高齢化が予想されていたので、若い人が老人の年金を支払うといっても負担が増えるから だ。その時にはまだ産業構造の転換が遅れて定年制度の廃止までは行っていない。そうなると高負担で社会が混乱する。賦課型の場合、もし負担率さえ妥当なら その年のうちにお金をさばくのでインフレの心配もないし、お金が溜まっていないので政治家も狙ってこない。

でも1960年代、まだ「新しい家庭像」がはっきりしないうちに、到底、少子化高齢化を予想した年金などは国民の理解を得ることができないので、厚生省は崩壊を承知で積立型年金を始めた。つまりNHK、東大教授などが勇気があり、誠実で、困難でも事実を説明する勇気があったら出来るかもしれないが、それも期待できず、世論は「自分が得する方向」に進むだろう。

仕方なく「積立型」で年金がスタートし、30年後に崩壊して社会保険庁がなくなり、「年金が崩壊したのは少子化だ」という事実と違うが国民が容易に理解できる政治課題で交わすことになった。かくして、国民は年金として貯めてきたお金の3分の2ぐらい(およそ100兆円規模。ひとりあたり100万円程度)を失った。後に整理するが赤字国債の発行なども合わせると、国民の損害額は1000兆円、ひとりあたり1000万円に及んでいる)。

現 在、年金制度は迷走している。誰も触れたがらない。積立型年金から自分が積み立てるのだから「少子化」など関係がないが、「少子化で年金が大変になる」と いうまったく見当はずれのことが言われる。仮装社会の典型的な現象で、「賦課型では負担が大きい、積立型は崩壊する。でも、本当のことは見たくない」とい うことで、「形式上、年金制度があるが、もう一度、崩壊しないと国民の理解は得られないだろう」という状態にある。

解決策はあるが、どんな解決策も、1)インフレがある、2)お金があれが政治家が狙う、3)定年を伸ばさなければならない、4)人によって損得が多い、ことを覚悟しない限り、解決策を出しても潰されるだけなので、誰も言わない状態が続いている。

(平成261031日)