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小学校で道徳の教育を正課で始めるという。賛否両論だが、子供に道徳を教える前に、大人が道徳を守る社会でなければ効果がないのは当然でもある。それを踏まえての論評だ。

 

名古屋を中心に大きく店を展開している創業が昭和25年という木曽路(しゃぶしゃぶ)が「松坂牛」といって「普通の牛肉」を出していたことがわかった。今のところ、その規模は7000、値段の差は1500円と説明されている。

 

昨年来、レストランなどが食材を偽って出す事件が続いていて、食を提供する仕事の倫理観が問題になっていたが、木曽路ほどの名店が偽装をしているのはやや驚いた。そんなことをしなければ経営が成り立たないのかと驚く。

 

しかし、もっと驚いたのは、その対応であった。2014815日にあった木曽路の記者会見は私にとっては日本の商道徳もここまで来たかという感じがした。社長が言われたことは、次の二つだった(趣旨)。

 

1)木曽路は松坂牛でない普通の牛肉も十分に美味しい(言外に「偽ったというけれど、客は分からないだろう」という意味に受け取ることができた。そうでなければこんなことを記者会見でいう意味がない)。
2)
松坂牛が7000円、普通の牛肉が5500円だから、申し出た人にはその差額の1500円を現金で返す(「一定額」という報道もあった)。

 

まったく私の感覚とは違う。もし松坂牛と木曽路で出している普通の牛肉の味が同じなら、お客さんにはより安く味が同じという牛肉を出すべきで、「うちの牛肉は松坂牛と同じ品質です」と言えばよい。もしそれでも松坂牛を望むお客さんには、「味は同じですが、ブランドものですから、1500円余計にいただきます」と正直に言うべきだ。

 

松坂牛と思って食べたお客さんにしてみれば、詐欺と同じだ。詐欺をしても「差額だけ戻せばよい」ということなら、なんでも「詐欺」をして高く売り、ばれたらその差額を払うということで詐欺をした人はまったく損をしない。客の方は騙されて一回の食事をしたのだから、計り知れない損害である。

 

江戸時代末期、旅行家が日本に来て、日本の渡し船が「ふっかけない」というので驚いた。渡し船に乗る人はおおよそ「通りすがりの人」だからだましやすい。そこで普通の国は2倍ぐらいのことを言うのに、日本の船頭は誰にでも同じ金額を言うというので感心していた。多くの国、特に中国がそうだが、「騙される方が悪い」と考えるが、日本は「騙す方が悪い」という文化だ。

 

普通なら謝り、タダにするのが日本の商道徳だから、「一定額を返還」でも、「差額を返還」でもこれも私の感覚に合わない。どうも、「味が同じならブランドを信じる客がわるい。詐欺に遭うのは当然だ」という理屈を持つ国もあることはあるが日本がそうなってしまったのだろうか?

 

名古屋が本拠地で、素材屋という名前の居酒屋や鈴のれんという和食レストラン、とりかくという鳥料理などを展開している。名古屋に住む私としては恥ずかしいように思うけれど、木曽路は木曽路の理屈があるのだろう。

 

でも「差額だけ返す」という報道が正しければ、それだけは「詐欺をした方が得をする」という見本を示すことになり、子供に教育することもできないので、せめて全額を返すようにしてほしい。

 

私は値段や品質より、「誠意」を食べたい。

 

(平成26815日)