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土砂災害の多くが土砂崩れだが、最近、少し増えているというグラフが国土交通省から出ている。

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しかし、このグラフは若干、トリックが含まれている。一つはグラフ自体が「平均値の線」はあまり変わっていないのに、その変化を強調するために枠を付けた説明の数字を示す部分だけが急激に上がっているからである。このようなグラフの表示の不適切を指摘するのは大学の先生などを経験していないと、つい引っかかってしまう。

 

また第二に、最近10年に土砂災害が増えたと原因は平成16年の新潟豪雨、福井豪雨、それに新潟地震が連続したためで、平均的にはそれほど多くなっている訳ではない。むしろ最近10年間は平成16年を除くと、20年前より減少しているともいえる。

 

このような「特異な年」があるときに「平均としてどうか」という処理の仕方は科学としても難しい。標準的方法は、極端に高い、低いというデータを除いた平均値と、すべてを入れた平均値を両方示して考察するのがよい。つまり私たち科学者は何かの方向性を持つことを嫌うので、特異的なデータのある時には両方を示して頭の中を整理するのがふつうである。

 

土砂災害は、1)気象の激しさ、2)地盤の問題、さらには、3)土砂災害防止工事の有効性、の3つが要因だから、平成16年を除くと、雨の状態はあまり変わっていないので、地盤が崩壊した主たる理由は土砂災害防止工事の手抜きや政策の遅れの可能性もある。

 

そこで、日本全体の降水量を見てみると、1900年ぐらいから徐々に降水量は低下している。もちろん、その年によって1900ミリぐらいの値が出ることもあるが、平均値は100年前は1650ミリぐらいだったのが、最近では1580ミリぐらいまで低下している。

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しかし、最近の統計を見ると、1時間50ミリ以上の豪雨の回数が少し増えているようなデータもある。統計年が1976年までなので、まだハッキリ判らないが、豪雨の回数が増えている可能性もある。しかしこの回数にはこのシリーズで何回も指摘しているように「観測点の増加」という問題がある。アメダスなどの無人測候所の数が増えたので、それを補正する必要がある。

 

つまり、たとえば観測点が100ヶあるときに豪雨件数が20件とした場合、豪雨は平均的な降水量と違って、局地的に降るので、観測点が多いほど豪雨の回数が増える可能性が高い。従って、誠意ある科学者なら必ず統計を取っている間は観測点を変えないか、少なくとも観測点数で補正する必要があるが、そのような記載のある統計データはほとんど無い。

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しかし、このぐらいの雨の変化に対して、治水工事や土砂崩れ防止工事の進歩はなかったのだろうか? また国を挙げて「温暖化対策」をしていたが、温暖化によって気象が激しくなると予想されていたが、その予想を上回る変化とも思えないので、国は温暖化対策をすると言っておきながら、実際には個人に節約を呼びかけたり、税金を余計にとったりするだけで、予想される気象の変化に対して手を打っていなかったとも考えられる。

 

また、土砂崩れでもっとも大きな論点は、「土砂崩れするように修復する役所の基準」と考えられる。土砂崩れが起こると、地形が一変して、そこに住む人たちの土地の所有権などが大きく変化する。そのために、国土交通省では「旧に復する」という基本方針がある。

 

大規模な土砂崩れが起こっても旧に復せば、面倒な所有権の調整が要らないからという理由と、旧に復すればまた土砂崩れが起きて業者が儲かるという理由がある。

 

もともと、日本は急峻な崖が多い。次の写真は新潟地震の時の土砂崩れの状態であるが、写真の白い山肌が土砂崩れの起った場所であるが、山の至る所で土砂崩れが起こっていることが判る。(当時、有名になった山古志村。国土交通省提供)

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自然との関係でいえば、日本列島は古くからこのようなことをくり返しながら、河川が土砂を運び、山の土砂を海の方に移動させてきた。関東平野、濃尾平野など主要な平野は沖積でできている。またやや古い山地と言われる中国地方などの山はなだらかだが、それは「古くから土砂崩れを繰り返し、それを河川が運んだのでなだらかな山になった」とされる。

 

日本の大地はこのような特徴を持っているので、災害が起こる前に安息角が大きいところ(土砂崩れが起こる可能性のある角度を持った斜面)を計画的に削って、土砂災害を根絶するか、次善の策は土砂崩れが起きた場所は、「旧に復する」のではなく、「土砂崩れした状態、もしくはさらに平らにして」安定させなければならない。

 

河川もそうであるが、日本のように急峻な大地で雨が多いところは、川の護岸工事をすれば氾濫がなくなる代わりに川底は山の方から運ばれてくる土砂で高くなり、天井側になる。その結果、都市のように舗装が進み、雨が土に吸収されないような構造のところでは、降った雨の水をポンプで河川にくみ上げなければならず、これが都市洪水の原因もなっている。

 

川底の浚渫を行ってその土砂を河口に移動させれば、かつて自然がやっていたことを人間がやることになるが、この場合も土砂崩れと同様に「なにが自然で、何が環境保全か」という基本問題を充分に研究する必要がある。現在の土砂崩れの犠牲者は厳しく言えば、国土の作り方に関する基本的な方針がいい加減である、もしくは研究が不十分であることが毎年のように犠牲者をだし、それを「異常気象」が原因としているので、改善が遅れているとも言える。

 

(平成26727日)