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台風8号は毎年、日本に来る台風の一つと変わらなかったが、これが異常とされた原因は、「7月に来た台風で」という季節限定があったこと、理由として「太平洋の水温が例年になく高い」と言うことが理由とされた。

 

当時の太平洋の水温はどういう状態だっただろうか? また気象庁が特別警戒警報の基準となる910ヘクトパスカルや55メートル以上の風速などにはまったく達しなかったのに、なぜ、特別警戒警報を出したのだろうか? 科学的にみてその蓋然性はあったのだろうか?

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20147月初旬の太平洋の水温は日本の東方海上でアメリカの近くが3℃高く、日本近海の南に平年を2℃下回る冷水塊があった。その他部分的に1℃から1.5℃高いところが散在するが、その一つにフィリピン東方の海水がある。そこで台風8号が発生した。

 

気象予報士は当初、フィリピン沖に水温の高いところがあり、それが「異常」だという表現の解説をしていたが、1℃ぐらいの水温の変化は頻繁にあり、有名なペルー沖の水温によってもずいぶん変化する。

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また今回、気象庁が予想した910ヘクトパスカルに発達しなかった理由の一つに、この拡大図が示すように日本近海の水温が低かったことが挙げられる。フィリピン東方では水温は平年に比べて1℃程度高いが、沖縄ではほぼ平年であり、台風の東側に当たる海水域はマイナス2℃などであった。従って、台風にエネルギーを与える「温水」という点では沖縄に接近するとともに冷水の領域が増えたことがあげられる。

 

また九州に接近する頃には台風8号の気圧は急激に上昇して970ヘクトパスから程度になっていたが、これは海水温から言って妥当なものだった。もちろんこれほど明白な事実なので、コンピュータでは当初から予想されていたと考えられる。

 

それではなぜ、気象予報士は台風8号で大げさ、もしくはウソを言ったのだろうか?

 

この海水面の水温は気象庁などから常に出されていて、情報は充分に知っていたと思うので、正しく「気象庁は910ヘクトパスカルまで発達すると予想していますが、沖縄付近の海水温が低いので、あまり発達しない可能性もあります」と言うことができた。

 

しかし、私のテレビの経験によると、テレビに出る人は「多くの人が言っていることをできるだけなぞらなければならない」という強い強迫観念があり、それが台風8号の場合の極端な報道になったものと思われる。「50年に一度」、「命の危険を避けるように」、「これまでに経験したことがない」というような事実とは明らかに反する報道がされた原因の一つでもあったと思われる。

 

また、「記録的」という言葉が頻繁に使用されるが、これは福島原発の「防護服」や、「脱法ハーブ」に見られるように、現在のマスコミが用語を不正確に使う一つの例である。

 

観測網の発達とともに、「記録」の数は増えていく。その一例として、気象庁が最大風速の「観測結果の統計を取り始めた年」と「観測史上1位の値」と「7月の1位の値」が観測された西暦の関係を示したグラフを公開しているので、それを参考にしてみる。この表が最近の異常気象を考える時のもっとも象徴的なデータである。

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まずこの表では鹿児島県の最大風速の記録を示していて、観測点の数は31カ所である。そのうち、20世紀から統計を取り始めている箇所は7カ所で、残りの24か所2008年ごろから観測を開始している。

 

20世紀から観測指定いる7カ所では、最大風速を記録した年は1965年、1996年、1945年、1989年、1964年、1970年、1977年と約50年間で10年ほどごとに各地で1回、最大風速を記録している。だからたとえばテレビがそれを伝えるときには、10年に1度、「今年は**地方でこれまでの最大風速を観測しました」と報道するだろう。

 

ところが、観測網は21世紀になって急速に増え、特に2008年、2009年(約5年前)から整い始めている。その結果、ほとんどの測候所が「2012年」が「観測史上、最大の風速」になっていて、これが「記録的な・・・」という表現でマスコミで伝えられる。

 

つまり表が複雑だが、簡単に言うと、2008年から観測しているので、2012年、2014年に「観測史上最大」の風が吹いている。でもこの「史上最大」というのは、5年間ぐらいの観測なので、表現は不適切であり、このまま報道するのは公序良俗に反する。

 

また、今回の台風が「7月では過去に例を見ない」と言われたが、測候所ごとに記録をつける現在の方式では、新しく測候所を開設すれば、「観測を始めてからもっとも・・・」という表現になる。この表現は観測開始年と近くの測候所の記録などを示せば正しいが、テレビなどでは単に、「観測史上・・・」という表現をとるので、それがまさか2009年からであるとか、近くの測候所では二倍の風速や雨量が観測されていても、それに言及されない。

 

このような表現方法は、「大げさに言って視聴率をとる」ということや、「大げさに言うことは災害を減らすのだから、正確性より防災だ」という考え、また「日本国民はバカだから、数値を言ってもダメだ」という国民に対する不信などが原因となっていると考えられる。

 

原発事故のあと、宮城県知事が、「県民は数値の理解力がないから、数値を言ってもダメで、危険か安全かだけにする」と言ったことと符合する。しかし、基本的な防災は国民の理解が進むことが大切で、このようなトリックまがいのことは早期に止めた方が良い。

 

(平成26725日)