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これまで2回にわたって、”11ミリの法令の被曝限度は間違っていて、日本を滅ぼすことになるという主として、日本の指導層、医師、それに右翼系思想家などの論拠を検討してきた。その結果、

 

  1. 11ミリという法令の限度があることは認めている、

  2. 科学でまだわかっていないことについて、思想的に科学的判断ができるとしている、

    と言うことがわかった。

    科学では「どのぐらいの被曝で、どの程度の健康被害がある」ということがまだわからない。わからない原因は多種類あるが、ガン、白血病、遺伝障害などの被曝によるとみられる疾病は、他の原因でも起こるので難しい。また、多くの疾病は「確率的」に起こるが(たとえば冬になると確実にインフルエンザの患者さんが増えるが、「どこでどのような生活をすればインフルエンザになる」との判断をすることはできず、「人混みの中にいると、そのうち何人かがインフルエンザになる」とか、「同じ学級でもインフルエンザに感染する生徒と元気な生徒もいる」ということになる。

    原発作業員の白血病については、裁判が多く行われ、「15ミリ以上の被曝で、成人男子でも白血病になり得る」と言う判断の下に労災が適応されている。このような社会的な経過から見ると、幼児や妊娠中の女性などが含まれる一般社会では、11ミリの被曝限度は、社会的には妥当だろう(科学ではわからないのだから)。

    そうすると、日本の指導層、医師、そして右翼の人が被曝限度が不適切だと感じるには、純粋に科学的なことではないことが判断基準になっていると考えることができる。

    指導層は経済を考えているのだろう。すでに資源エネルギー庁が出しているように、原発と石炭火力とを比較すると、ほぼ同じか、安全投資を考えると石炭火力がもっとも安価である。また、アメリカは原発の基数が日本の2倍で、電力生産量が4.5倍だから、電力生産の中の原発の割合は15%を下回るが、電力費は日本が20円(キロワットアワーあたり)のに対して10円と、2分の1にしか過ぎない。

    原発を止めると、現在、日本にある原発を捨てることになるので、やや多めに計算しても10兆円ぐらいの損失になる。GDPが約500兆円、国の予算が100兆円、対外純資産が240兆円であることから見ると、「日本が崩壊する」といった損失ではないことがわかる。

    原発を止めると石炭などの燃料を買うからその分だけ貿易赤字になるという話は、このブログにも書いたが経済の初歩の知識で否定されるので、問題にするべきではないだろう。

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    医師の中に放射線の影響を小さく言う人がいるが、この問題は、次の3つの視点から考える必要のあることで、少し右翼の人とは異なる整理をしなければならない。

     医療には放射線が欠かせないので、より積極的に医療での被曝と、それによる健康障害についての研究を進めるべきである、
     医療に放射線関係の機械を使い、それは膨大な利権を生むことは国民が多く知っているので、利権のために被曝を軽く見せているのではないかとの疑いを積極的に払拭する必要がある、

     医学の研究をする医師と、医療に携わる医師とでは社会的な責任が大きく違う(安楽死の研究と安楽死を治療に用いることの例と同じ)が、原発事故からの医師の発言を見ているとこの区別が明確ではない、
     医師は疑いのあるものは健康側で発言するというのがこれまでの医の倫理だったが、福島原発事故以後は、それが逆になっている、

     健康に障害が起こる可能性のあるものについての法令がある場合、医師がそれに反することを発言することは社会的な倫理に反する、
     福島県の医師が発言したように、「被曝を心配するより、心理的な影響が大きい」ということはこれまでの医療では「言ってはいけないこと」であった。

    原発事故をきっかけに明らかになったこれらのことについて、医師会や各医学会は原発事故後の医療体制とともに、被曝について社会に何を発信するのかについての研究を進める必要があるだろう.

    いずれにしても3回にわたって「11ミリは日本を崩壊させるか」について検討を加えてきたが、電気を作る方法は原子力ばかりではないし、火力発電がもっとも安全で、コストもそこそこであることは論を待たない.もう少し落ち着いて議論をし、せめてアメリカやフランスのように、人口密集地に原発を建設し、川の水で冷却するだけの信頼性が必要だろう.

    つまり日本でもご都合主義の話を止めて、真に国民が原発の安全性についての自信を持ち、「琵琶湖に10ヶの原発を建設できる」ようになったら、原発は再開できるということだ。原発は安全だといい、琵琶湖には作れないというような誠実みのない日本人から脱皮する必要がある。

    (平成26611日)