コレステロールは血圧よりもう一つわかりにくいのですが、血圧が「物理的な圧力」なのに対して、コレステロールは形のある「物質」なので、理解はしやすいという面があります。
コレステロールの誤解は、今から50年ほど前、研究が不十分なのに「コレステロールは低いほうが良い」という誤解が日本社会に蔓延したことにあります。これはヨーロッパの研究をそのまま日本に持ってきたからで、ヨーロッパで「コレステロールが高い」というとアメリカやフィンランドでみられる300(血中100ccあたりのミリグラム)ぐらいのことで、日本人はもともと150から200ぐらいですから、300の人の症例など当てはまらないのですが、それを間違ったのです。
つまり、この図のようにコレステロールが250ぐらいになると心疾患の死亡率が高くなるのですが、200ぐらいまではほとんど変わらないのです。特に日本人のコレステロールは少ないし、グラフでわかるように120ぐらいから200ぐらいまでほとんど心疾患死亡率に変化はありません。
でも、一時期、NHKが大キャンペーンを張って「コレステロールは悪い」と言ったものですから、引っ込みがつかず、「善玉は良いが悪玉は悪い」という奇妙なことになり、今でもそれが引き継がれています。
もともとコレステロールは体になくてはならないもので、食事でもとることができますが、その大半(体にある量の実に80%)は体内で必要に応じて作られます。つまり「コレステロールの少ない食事」などはほとんど意味がない可能性が高いのです。もしコレステロールの少ない食事をしますと、体はコレステロールが不足して体内で合成しなければなりませんし、その逆なら合成しなくてもとることができます。
「コレステロールが低いほうが良い」と言うことには最初から反論がありました。コレステロールが少ないとがんの発生が増え、うつ病が進行するからです。またコレステロールは血中に沈着する可能性もあるのですが、逆に血管を若く保つためにも必要です。ここでは次の図に示すように、コレステロールが200以下になるとがんが急激に増え、コレステロールが250を超えると虚血性心疾患が増えるというグラフを出しておきます。
ただ、このようなグラフはそのまま受け取れない場合があります。コレステロールが低いとガンになるのか、ガンになるとコレステロールが減るのかどちらかだからです。
それはコレステロールが多い時も同じで、単なる相関関係だけではなく、因果関係の研究がどのぐらい進んでいるかによっても違います。
血圧の基準が130から150に代わったように、コレステロールも上限が200から250にあがりました。これは「理論的に200以下が良い」と言う今までの結果とは別に、「健康な人のコレステロールはどのぐらいか」と言う別の視点から整理してわかったものです。
また女性は年齢によって大きく体が変わるので、45歳までは240、55歳までは270、80歳まででは280となりました。女性の方が若干、コレステロールが多くても良いようです。むしろうつ傾向になったり、がんになる方が怖いからでもあります。男性の場合は40歳から60歳ぐらいが20ぐらい高いようです。
つまり、「コレステロールが高い」というのはなんら問題ではなく、体内で合成する量を体が良く分からずに、作らなくなったり、作りすぎたりするのが問題です。食料からの補給は20%にしかすぎませんから、もし食事を変えてコレステロールの摂取量が2倍になっても、体内合成量を80%から60%に下げればよいだけのことです。
まだ研究は途上ですから、これも「平均的な数値が良いだろう」ということと、「コレステロールが高い低いが病気ではなく、コレステロールの調整ができなくなった状態が病気」ということがわかります。でも、現在はよくわからないので、数値を見てある一定以上で「高脂血症」などという「病名」がついて薬がでたりしますが、高脂血症という病気はやや怪しいという感じがします。このことは中性脂肪と一緒に整理をします。
これまでの間違いを一回NHKも放送しなければならないと思います。卵はコレステロールが多いのですが、食事から多くとれば体内で作る量を減らすから問題はないということになるのですが、今のところ、かつての間違いを認めて、私たちの毎日の食事や生活をどうすればよいのか、まだ指針は出ていません。
(平成26年4月29日)