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温暖化のことが問題になると「IPCCに専門の学者が3000人もいるのだから、IPCCの言うことは科学的だ」という論理を主張する人がいる(IPCC:1988年アメリカの提唱によって国連に作られた地球温暖化政府間パネル。ただし、アメリカはその後、一度もIPCCの決定に従っていない)。
気象予報士の方もこの間違った論理に惑わされ、あるいは信じている人がいる。たとえばある個人の学者が「これからはむしろ寒冷化を考えないと」というと、それは「3000人の科学者と1人の学者の比較だから、3000人が正しい」と多数決の原理を使う人もいる。でも、このことを学問や科学と言う点から考えるとどうだろうか?
科学の歴史や学問の本質をあまり学んでいない気象予報士の方もおられるので、ここで説明を加えた。
「学者の集団」というのは「科学的な検討をする集団」とはかぎらない。ナチス時代のドイツの「民俗学の学者の集団」はドイツのほとんどの学者を集めていたが、その目的は「ゲルマン民族はすべての民族より優れている。ユダヤ民族は劣っている」という証拠を集めることだった。
当時、ドイツではこの「学者集団の力」が極めて強かったので、大学の博士課程を通るためには「ゲルマン民族が優れている」という論文以外は認められなかった。
スターリン時代のソ連では、ルイセンコ学派が力をつけ、その学者集団が「共産主義のもとでは穀類や野菜が良く育つ」という「精神や政治体制と植物生育のコラボレーション説」をだし、ルイセンコはソ連の科学アカデミーの総裁となり、力をふるった。今では、共産主義の下で小麦が良く育つという学者はいない。
学問はこのような不祥事、つまり政治によって科学的事実が大きく影響を受けることを防ぐために、
1)学問の検討は「誰でも参加できる組織に限る」、
2)異論を封じることをしない、
3)過度に政治や産業からお金をもらわず、貧乏でも会費で運営する、
という原理原則を打ち立てて、今日にいたっている。
IPCCは「政府に任命された学者」だけが参加し、「地球が温暖化するという予見に基づき」、「政府から出張費や手当をもらって出席する」という学者の集まりだから、「学問的でも科学的でもない政治的団体」であることは明白である。
しかし、ここに現代の日本の問題点がある。つまり、ヒットラーやルイセンコの反省から、(まともである程度のレベルの)学者なら、IPCCに参加しないはずである。IPCCは1988年6月23日に行われたアメリカ上院の公聴会でその科学的内容が発表され、アメリカとイギリスが主導して国連に作られた「政府間パネル」であって、学会でも学者の集まりでもない。
だから、日本の学者が「学問的活動」を続けようとするなら、学者仲間からバカにされ蔑まれるIPCCなどに参加するはずもない。でも、多くの学者が喜んでIPCCに参加しているし、さらにIPCCに参加している学者を擁護する論調まである。
これまでの経験では、歴史学にしても、経済学、理学、工学、農学、医学・・・すべての分野で政治と結合した学問は腐敗し、それによって国民は大きな被害を受けている。学問は強力な武器であるがゆえに、学問を業としている人は「学問は政治に加担してはいけない」ということをもう一度、肝に銘じてもらいたいものだ。
ところで、日本で「地球が温暖化するかどうか」を議論する場はほとんどない。それは、1990年代に「役に立つ学問」というルイセンコ時代ではないかと思われる思想が日本にできて、今では研究費の大半が文科省を中心とした役所に握られ、役所のお眼鏡にかなう研究しかできない仕組みになっている。
そこで、各大学とも「政府の政策にあう方向を持った学問」しか現実的にできなくなってきている。このことは学問の成果という重要な日本の財産を失っていることを意味する。
日本にも良心的で優れた学者がおられるが、残念ながら、すでに政府、御用学者(東大教授の多くが御用学者)、マスコミの力に押されて、学問自体を放棄している。私が学会で発言する時ですら、「私は学者ですから・・・について一般的に言われていることと違うことを言いますが・・・」と断らなければならない状況まで来ている。
学問をやってきた一人として、学者がこれほど腰が弱かったのかと残念でしかたがない。しかし、一般の人の方がまだ「IPCCは学者の集団ではない」ということを理解していただけるのではないかと思っている。
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ところで、最近、アメリカのケリー国務長官が「温暖化はIPCCで検討している。それに異議をはさむ学者はインチキ学者だ」と言ったことを重視して、日本の温暖化批判をばかにする意見が多くなっている。
アメリカは自らが提唱したIPCCが設立されて以来、26年間、IPCCの勧告に一回も従わず、CO2の規制はしていない。そのアメリカの国務長官が発言したと言ってそれをそのまま取り上げて日本人を非難する人たちの頭は「アメリカ教」になった人か、「長いものに巻かれろ(アメリカご主人説)」という性質の人としか考えられない。
政治と学問を切り離し、特に気象予報士のように「学問的根拠に基づいて職を維持している人」は、決して政治に巻き込まれないような強い精神力を持ってもらいたいとおもう。
(平成26年3月2日)