カネボウの美白化粧品が大きな問題を起こしている。この化粧品を使った女性の肌が部分的に白くなったり、醜いむらになったりして、なかなか治らない。発症が見られたのは今から2年ほど前で、患者の数は1万人に達しているという。
この事件は日本で起こったこれまでの薬害事件・・・水俣病、カネミ油症事件、ミドリ十字エイズ事件・・・や姉葉建築士が起こしたマンション耐震性事件などと同じく、役所の無責任とそれを隠ぺいするのに協力しているマスコミの問題がそのまま出ている。軽く見ることはできない事件である。
カネボウが研究して、白樺の木から抽出したロドデノールという化合物で、美白効果があり、2008年に厚労省が薬用美白成分として承認している。被害者は肌が醜くなり外にも出ることができないような悲惨な状態で、カネボウは異常が見られてから1年半もほっといたので、それも社会問題になっている。
しかし、この事件を矮小化してはいけない。問題をまず2つに分ける。
1)研究と承認の問題
2)企業の対応の問題
社会に有用な新規な化合物を企業が開発するのは研究活動としては悪いことではない。たとえば今回の美白化粧品についても、若干、肌の色が濃いということで心中、悩んでいる女性の方にとっては肌が白くなるというのは実に素晴らしいことで、それでその人の人生が幸福になるかも知れない。
しかし、一方では「新しいこと」というのは常に危険を伴う。研究者は常に新しい物質の持つ魅力、それが成功した時の社会的名誉などに気がひかれるが、同時に、それが社会に危険をもたらさないかについて同時に思い至る度量がいる。
社会的に大きな問題となったのが「水俣病」だ。この事件はあまりに社会的な関心を呼んだので事件発生以来50年もたっているのに、まだ正しい評価はされていない。水俣病の本質は「科学の間違い」と「政府の間違い」であり、「会社の垂れ流し」ではない。
それは簡単なことで、水俣病は水銀の誘導体である有機水銀が自然の中で合成され、それが人間や動物の脳神経を冒すことによって起こるが、会社が水銀を大量に使うまで、水銀が重篤な病気をもたらすことは知られていなかった。
だから、会社の工場設計、操業条件は日本政府と熊本県によって認められ、会社は「社会正義と法規制」にそって運転をしていた。ところが、数年後に漁民に疾病が現れ、それからはまっしぐらに「水俣病事件」へと進む。
裁判が行われ、会社の「無過失責任」が問われて有罪となる。日本裁判史上、もっとも醜悪な判決だったこの水俣病判決がその後に1万人を超える「薬害被害」を誘発する。不正(裁判の判決)は被害(その後の薬害被害)を生んだ。
水銀を使っての操業を国(熊本県を含む)が認めたのだから、責任は国にある。国は「国民に代わって会社が工場を運転してよいか」の審査をして「GO」をだし、「排水基準」などを認めたのだ。
ところが裁判所は「国無謬説」を採用した。明らかに責任は操業を認めた国にあるのに、裁判所も国だから自分は正しいとして裁かず、そうなると「事件は起こったが犯人がいない」ということになり、「無過失でも責任がある」という奇妙な理屈を立てて弱い者(会社)をイジメた。
その結果、「新しい物質やプロセスを業とする時に国は何を審査しなければならないのか」というのが不問に付せられ、カネミ油症事件、ミドリ十字事件、そして今回のカネボウ白斑事件が起きた。
それでは、水俣病の真犯人と、真犯人を隠匿した共犯者は誰だったのだろうか?
(平成25年12月23日)