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日本人の心の「琴線」とはなにか? その回答が野口雨情作詞、中山晋平作曲の、「波浮の港」だと専門家に聞いたのは今から30年ほど前だった。それまで日本の童謡と呼ばれるものや童謡ではないけれど日本の歌として知られているものはどれも懐かしく、甲乙をつけて聞いたり歌ったりしなかった私も、それからというもの、この歌だけは特別な思いで聞くようになった。

 

海に囲まれた日本に住む日本人にとっては海や港には特別の思いがある。
船もせかれりゃ出船の仕度
島の娘たちゃ御神火暮らし
なじょな心で、ヤレホンニサいるのやら

 

でも、昔から日本には笛や琴、そして民謡などもある。その中で一曲というとむつかしいが、宮城道夫作曲 筝曲の「瀬音」が素晴らしい。「瀬」というのは川の流れが急で足をとられそうなところを言う。

 

男女の密会を「逢瀬」というし、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もありとか、立つ瀬がないなどという言葉もみな同じ「瀬」という意味だ。そういえば百人一首にも「瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ」という歌を崇徳院がうたっている。

 

宮城道夫のこの曲はあまり知られていないが、一度、聞いてもらうと多くの人が「こんなに美しい曲があったの!」と驚く。まさに日本の渓流を見事に表現した曲だ。

 

そして3番目に挙げるとすると、古賀政男作曲の「白虎隊」についている詩吟が良いだろう。もともと漢詩などを節をつけて吟じるのが詩吟だが、歴史はそれほど古くなく、江戸中期に発生し、日本独自の文化である。

 

歌謡曲としての白虎隊をうたった後、それについている詩吟を吟ずるとなお一層、幕末の会津戦争の心を知ることができる。

 

「波浮の港」、「瀬音」、そして「白虎隊の詩吟」と並べると、そこには日本の風土、日本人の心が体にしみとおってくる。でも今では消滅しかかっているけれど、なぜこのような素晴らしい日本の文化が衰退していくのか、やや私にはその理由がはっきりとはわからない。

 

(平成251217日)