「uemuratdyno.163-(13:55).mp3」をダウンロード

名古屋市美術館で上村松園さんの展覧会が始まります。明日ぐらいから6月2日まで約1ヶ月のあいだ、見ることができます。とても良い絵なので多くの方が楽しまれることを期待しています。

私が絵を見るときにどんなことを考えてみるかを少しご紹介します。

上村松園という人は日本の女流画家としてはほぼ初めての人で、日本の美人を描いて当代一という地位を築き、それが珍しいので、「美人画の上村松園」、「女性画家としての苦労と作品」などが強調されますが、私はもう少し違う視点で見ます。

第一の視点は「宗教の制約の無い日本の女性の絵」というものです。ヨーロッパの絵画はギリシャとキリスト教の影響が強く、人間そのものを描くというより、神との関係で女性を描くことが多いのです。

また、「神から作られた人間」という意識も強いので、初期の絵画は「風景は添え物、人物主体」ということで、本当の風景画が描かれるのは、「風景だけでも神の創作物だから風景だけでも良いのだ」と一線を越える必要がありました。

日本でも仏教画が無いわけでは無いのですが、平安時代からの日本の絵画は、どちらかというと風景と動植物が主体で、人間の描写はそれほど生き生きとしていません.「鳥獣戯画」などを知っている人がおられますが、人間と動物は対等だという意識が日本人の中にあります。

その意味で上村松園の美人画を見ると、宗教色の無い女性の美しさが描かれていることに気がつきます.

第二の視点は「日本人の男女観」です。このブログでも書いていますように日本とヨーロッパの男女観は大きく異なります。ヨーロッパが「女性は男性の所属物」としてきたのに対して、日本はイザナミイザナギ、天照大神、そして卑弥呼でわかるように男女はまったく差が無く、心、美などについては女性が上位でした.

日本の伝統的な絵画には、日本の男性はほとんど出てきません.そう言うと「源頼朝や織田信長などの絵があるじゃないか」と言われますが、いわゆる肖像画というのは「名前の無い人の人間を描く」のでは無く、「誰々」という印象がまずあって、その人を描くのですから、全く別ものです。

上村松園の女性画でも、お母さんなどと人物が特定するものもありますが、多くは「名も無い女性」であり、その女性が「人間として絵画の対象になり得る」ことを示しています。つまり女性そのものに心があり、それを表現することができるのです。それに対して男性の場合は「織田信長」という位や「歌舞伎役者」という特殊な役割があれば絵になるのですが、「誰ともわからない男性」が書かれるには明治時代になってもやや怪しいという感じです.

日本の男性は「自然、生物、女性」を尊重し、それらを対象として絵を描いてきたと言えます.もう少し踏みこむと「精神性を持った男性はいなかった。実務だけの男性」ということです。これは世界で初めての小説や随筆が紫式部や清少納言のように1000年前後に書かれたのに対して、男性は専ら記録文書に留まっていたという文学の世界とも共通しています.

因みに、日本以外の女流作家としては18世紀のアフラベーンで、それも夫に先立たれてからしか社会的活動はできませんでした。日本の女性は男性より生活や心などについては上位にあったことが上村松園の絵を見るにつけて感じられます.

今回の展示会では有名な「序の舞」は作品が傷むことを防ぐために出品されていませんが、それを補う多くの作品でかえって「普通の生活の中の、普通の日本の女性のすばらしさ」を充分に感じることができます。

ところで、細かく見ることもできます。たとえば初期の作品(今回で言えば1階の展示)ではお師匠さんに学びながら、迷いながら筆を運んでいることがわかりますし、中期には徐々に自らの作風が決まってきます。さらには後期のものには「私は日本の女性の美はこのように思う.社会は間違っている」という彼女の心がでているように感じられます.

最近の私たちは戦争前にくらべて決して貧乏では無いのですが、心の充実に割く時間は短くなりました。是非、中京地区にお住みの方や名古屋で時間がとれる方は美術館に寄られると良いと思います。

また、美術館でゆっくり見る時間があれば、売店で少し高めの上村松園の本を買うと良いと思います.私もパリのオルセー美術館やアメリカの田舎の美術館で買った本は今でも懐かしい宝物です.大きなルーブルのような本より、小さな展覧会や美術館の本の方が記憶に鮮明に残るようです.

私は多摩美術大学で18年間、教鞭を取ってきました.私の講義は「鑑賞する方からの美術、デザイン論」で、必修科目を担当して多摩美の学生に、やや感性を後退させて、大きな歴史や文化の中で美術やデザインを見るとどう感じるかを中心に講義してきました.

色彩、構図、狙い、作家の生涯、作風の変化など、通常の美術品の鑑賞に加えて、もし参考になればと思います.

(平成25419日)