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【第一の事件】

1年ほど前に名古屋のとあるテレビ局で朝のニュース番組の解説をしたことがあります。なにかエネルギーの話になり、アナウンサーが「石油などの化石資源はあとどのぐらいありますか?」と質問したので「8000年ぐらいは大丈夫でしょう」と答えました。

アナウンサーは「ずいぶんありますね」という感じでしたが、隣の朝日新聞の論説委員は「いい加減なことを言うな」という趣旨の発言をしました。自分のことをいばる訳ではありませんが、私は資源の専門家で大学教授として活動してきたのですから、自分の専門分野のことで新聞社の人から「いい加減」呼ばわりされる筋合いはないと思いました。

そこで番組がおわり控え室で「私の見方と違うなら、根拠を示してくれ」と求めましたら、単に「受け売り」に過ぎないのです。当然と言えば当然で、朝日新聞の人が専門の論文を読んだり、現地に調査に行ったりしていないのですから、日本の中で報道されていること(つまり私の言う「空気的事実」)を信じているだけなのです。

でも、その朝日新聞の論説委員が特に悪辣ということでもありません。日本の学者や専門家ですら、「資源がなくなると言う空気ならなくなると言う」、「温暖化するという空気なら温暖化するという」というのが今のやり方なのですから。

私はここ20年来、「自らが学問的に「事実だ」と思うこと、また「解析したらこうなった」ということは、たとえそれが「日本の空気的事実」と反してもそのまま言う」ことにしています。こんな事を学者が念を押すこと自体がおかしいのですが、自分が事実だと思うことをそのまま言うと、「異端児」、「独自の考え」、「他人の心を配慮しない」と批判されることがあります。

【第二の事件】

朝日新聞の論説委員もそうですが、なぜ批判するかというと「みんなと違う」というのがその論拠です。このような「空気的事実」を「正しい」とした極端な例が南極の氷で、IPCCが「温暖化すると南極の氷が増える」と英語の報告書で書いているのを、環境省が故意に誤訳し、NHKがIPCCの報告に反して「温暖化すると南極の氷が減る」と報道して、「空気的事実」を作り上げました。

そうすると、日本中が右へならえして科学とは正反対のことを言うようになり、その結果、IPCCの通りに言っている私が異端児になるという実に奇妙なことが起こったのです。

この場合は学説でもなんでもなくて、私もNHKも同じIPCCを根拠にしていているのですが、NHKは「IPCCといってもIPCCのまま報道するより、空気的事実としたいもの」を報道するのが適当だと考えたのでしょう。NHKが間違った報道をするはずがないということで空気的事実が確定しました。これは日本社会にも影響を与えましたが、学者としての私の立場から言えば、「大きく研究をするのが阻害された」という結果になりました。

【私の立場】

私たち学者は「真理と正義を愛する」職業についていて、教育でも子どもたちに「真理と正義を愛せよ」と教えているのですから、到底、「みんなが受け入れやすいから」という理由でウソを研究したり、教えたりはできないのです。

少し長くなりましたが、このブログで書くことは、1)事実であり、2)それに基づいた考え方であり、3)もし違う考えがあれば必ずそれも併記する、ということに終始します。社会にどんな空気的事実があっても、個人を批判したりするのはできるだけ控え、自分の心をまっすぐにして、冷静に書いていきたいと思っています。

(平成241221)