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食品の被曝、特に「お子さんの被曝」をどのように考えたら良いか、多くのお母さんが迷っておられます。かつて、同じ事が「農薬」や「食品添加物」に不安を感じたお母さんが多かったのですが、最近はかなり改善されました。

なぜ、農薬の不安が減ったのかというと、「農薬で健康を害する人が出たら農業は終わりになる」と思ったからです。近代農業は人手も少なく、収入はそこそこ必要なので、農薬を使わずに農業をやるのは困難でした。

でも、食べるものですから、食べる方が不安に感じるものは売れるはずもありません。また日本の食糧自給率はカロリーを基準にして40%、田畑の面積を基準にするとたった25%しかありませんから、日本の農作物に不安が広がると、壊滅してしまいます。

そこで、具体的には二つのことをしました。一つは「危険な農薬を使わないこと」、もう一つは「100分の1基準を守ったこと」でした。比較的、安全な農薬を使って、それを公表し、加えて「動物実験で安全とされた量の100分の1を基準とする」としたのです。

”100分の1ルールというのは、まず「毎日、食べ続て、一生、食べ続けて安全な量」をADIと定義し、それを100分の1にした量を「基準量とする」としたのです。なぜ、100分の1かというと、1)実験データの不確かさで10分の1、2)人の体力や食べ方、年齢などのバラツキが10分の1、ということで結局、100分の1としたのです。

人間の知恵には限界があります。いくら動物実験を繰り返して「この量が安全だ」と分かっても、それが将来にわたって正しいとは限りません。たとえば「活断層が新しく見つかった」というように、学問は真実が分かっている方が希なのです。

そこで、まず科学者は謙虚に10倍の余裕をとるようになりました。そして次に人によって体力が違い、病気の方もおられ、食生活も様々です。たとえば、厚労省が「標準摂取量」というようなもの・・・日本国民が平均してどのぐらいの食材を何グラム食べるか・・・を発表しています。

早とじりの人は「きちんと計算しているから1キロ100ベクレルでも大丈夫」と言っていますが、お米を多く食べる人、サカナが好きな人などさまざまです。そして幼児はミルクばかりとか、さらに様々です。そこでさらに10倍の余裕を取ったのです。

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このグラフはADIを元にして「危険なものがどのぐらい含んでいるものOKとするか」というものですが、「無毒性量」からさらに左側のところに使用領域があります。こんなに安全を見なくても良いようにおもいますが、現実は「無毒性量」というところ自体に不明なところがあったのです。

そして、結果的にこれが成功しました。今まで危険な農薬の問題が常にあったのですが、日本は100分の1の基準を作ってから、食材に対する信頼性があがり、徐々に日本の食材の価値が上がっていきました。まだ絶対に安全と言うことではありませんが、現代農業と食品安全という難しい問題を真正面から取り組んで成功したと言えるでしょう。

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ところで、原子力でもおおよそ100分の1基準を使っていました。典型的には次の2つです。

1) 1100ミリシーベルトで明確な障害者が出る。それも100人の05人のガン死というかなりの高率である。従って、その100分の1をまずは基準にする。そうすると11ミリとなり、平均として1万人0.5人のがん死になり、社会が許容する。

2) 11ミリシーベルトを基準にするけれど、どんな場合でも安全という意味で、クリアランス(放射性物質で汚れていないとするレベル)はその100分の1110マイクロシーベルトとして、それに罰則(1年以下の懲役)をかけて国民の安全を担保する。

ところが、福島原発事故の直後に、120ミリの小学校の暫定基準を作り、セシウムだけで15ミリの給食用食材の基準を決めました。実に不見識で、なんの根拠もなく、これまでの食品安全の基本を破壊しました。

この時に審査に当たった委員が「法令やこれまでの食品安全の基準を使ったら、日本国民は飢えて死ぬ」などと御用学者ぶりを発揮し、それをテコに考えられない危険な基準としたのです。

事故の直後は実に危険です。次のブログに出しますが、事故の初期段階では放射性ヨウ素が出ますから、甲状腺の被曝は空間からの被曝は数倍になりますから、小学生を守るには「暫定基準」は逆方向だったのです。

そして、2012年に決まった基準も法令違反であり、かつADIの概念とも全く違うものです。すなわち、現在の食材基準は1キロ100ベクレルですが、これを決定した食品安全委員会自身が「標準的な人が食材だけで11ミリシーベルトになる」と説明しています。

福島原発事故が起こって、外部被曝や呼吸による内部被曝が多い現状では法令で定められている「外部被曝+内部被曝」の合計を11ミリにしなければなりません。

この法令を食品安全委員会が破ったのは、御用学者の集まりであったということもありますが、縦割り行政だからです。つまり、ある人がどのぐらいの外部被曝を受けるかは国土交通省や環境省、運動によって土ほこりを吸い込んだことによる内部被曝は文科省、そして食材などは厚労省だから、「国交省、環境省、文科省のことは知らない、厚労省関係だけで11ミリで何が悪い。他の省庁はゼロにしろ」と言うことです。

ところが文科省は文科省の分野だけで1ミリ、国交省は国交省の範囲で1ミリ、自治体は自治体の範囲で1ミリなどとしているので、現実には15ミリぐらいの被曝を受けます。それに子供は大人の2倍から3倍といわれますし、食材の種類も大人より少ないので、親はより慎重に考えてあげなければなりません。

ところで、原子力規制庁委員の中村佳代子さんなどのように、専門家は知らないふりをしていることが多いのですが、原発事故からにわか勉強した人の中には、内部被曝を50年間で計算するので、計算結果を50で割っている人がいますが、内部被曝は毎日、摂取する食材からの放射性物質がどの時点で体外から排出されるかを仮定し、積分することによって得られますので、奇妙な説明に惑わされないようにしてください。

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結論:
1)
 外部被曝、土ほこり被曝、水被曝を0.6見て、食材から0.4ミリとすると、1キロ40ベクレルがまずは基準となる、
2)
 子供は感度が高く、体が安定せず、食材の種類も少ないので、1キロ20ベクレルにする、
のが適当と思います。なぜ、40ベクレルと20ベクレルを基準にしなければならないのかは、この記事の最初の方をじっくり読まれれば理解できると思います。

そして、食品安全委員会には専門家の倫理を守り、法令の規定と自らが進めてきたADIの精神を尊重して、早く1キロ100ベクレルを変えてもらいたいと思います。

また、農家の方は「食品とは食べる方が信頼し、安心して食べることができるものを供給する職業だ」という職業の倫理を守って欲しいと思います。自らの生活より、職業の誇りこそが日本人の大切な魂です。

(平成24926日)