(このシリーズは法規にも違反することを言って、子供の被爆を増やそうとしている人たちへ具体的な反撃をするために執筆したものです)
「被曝しても健康には影響がない」と叫ぶ学者が後を絶ちません。その人達の論拠を分類してみると、1)単なる御用学者・御用評論家、2)仕事をするより被曝させた方が楽という自治体職員、3)原発を推進したいので、関係の無い被曝と健康の関係に議論を敷衍している(ご年配で愛国的な人に多い)、4)法律の規制を良く知らない(または法律の規制は学問的に決まっていないと考えている)、などです。
この中に「事故の時の法規や基準はない」という人も多いようです。たとえば「1年1ミリと法律に決まっているけれど、それは原発の事故がないときだ。だからICRPが勧告した20ミリまで良いのだ」という「ウソ」です。
まず、原理的には、原発はこれまで設計され、建設されて何10年と使っています。「設計され、建設された」ということは、その基準があるからできたことです。技術者なら設計段階で「事故確率やその場合の被曝限度」を定めないと設計したり、材料を選んだりできないことを知っています。つまりどんな設計でも危険をゼロにできませんし、材料も破壊する確率があります。
それでは、原発は「通常時」と「事故時」でどのような被曝限度が設定されていたのでしょうか?
●普通の時:
普通の時には被曝限度を1年1ミリとして、具体的に1年1ミリを守るために原発の敷地境界で生活する人の被曝量を、その20分の1になる0.05ミリシーベルト以下にするようにしていました。
このことを原子力の基本的なことを解説した公的な資料から確認しておきましょう。「日本の法令上の基準」について、解説をしています。少し小さいかも知れませんので、簡単に書いてあることを解説します。
原発事故から1年半もたった今でも、「1年1ミリなどと法令に書いていない」などというデマを流す人もいますが、この文章にも昭和32年に定めた最初の規定があり、その後、昭和63年に改正されて「日本における法令上の管理基準」と題して「1年1ミリシーベルト」としています。
このように明確に決められていた被曝限度を、事故が起こると政府、自治体、専門家、あるいは医師が法令上の管理基準を無視する発言が続いたのは日本社会の「法を守る社会人としての基本的な力」も無くなったことを示しているのではないかと思います。
次に、原子力発電所を運転するにあたっては、一般公衆が被曝しないように、1年1ミリのさらに20分の1である0.05ミリシーベルトにすることが明確に示されています。このことも少しでも原子力に関係した人なら誰でも知っていますが、なぜ1年1ミリの限度なのに、原発はその20分の1にしようとしていたかというと、「被曝は危険だから」という考え方です。
これも、東電の原発事故が起きた時に、「被曝は健康に影響ない」などと言う政府、自治体、専門家が登場したことにビックリしました。なぜ、今までなん10年も検討してきたのに何も言わず、事故が起こったら突如として逆のことを言うのです。原子力規制庁の委員候補の中村佳代子さんなどもその一人です。
このほかに原発から持ち出す場合、1年0.01ミリシーベルト以下なら「放射性物質ではない」としてOKとなります(クリアランスレベル)。これを1キロあたりの場合、普通は1キロ100ベクレルで、それ以上のものは絶対にもち出せず、これには罰則もついています。
「震災瓦礫を搬出する」ということを政府、自治体が行っていますが、その多くが「犯罪」であり「有罪なら懲役」ということですが、相変わらず「瓦礫の搬出に反対するのは反社会的」という逆のキャンペーンが行われるというような野蛮な国になりました。残念!!
・・・・・・・・・
● 事故の時
また、原発の運転に当たって、「事故が起こったときに許容される被曝線量」についても詳細に決まっていました。それは設計上も運転上も必要だからです。
これは原子力安全委員会の文書で、このような「事故時の基準」を定めた指針類は多く、それによって現実的に原発の安全性が守られてきました。いわゆる「専門家」と称する人でこのような指針を知らない人はいません。知らないと法令や基準、指針に違反するからです。
東電の事故が起こるまでのマスコミは、もし原子力関係者がこのような指針に違反したらそれこそ大きく取り上げて社会的な糾弾を行ってきたのですが、ここでも手のひらを返したように、事故時の規定がなかったと報道し、ICRP(国際的機関だがNPOで任意団体)の1年20ミリだけを報道しました。
ここには、ICRPの基準では「一般的に1年1ミリが守れないとき、5年間で合計5ミリでも良い」という考え方があることを応用して、日本では「発生頻度のきわめて低い事故(まれに起こる事故)」では、「1事故あたり5ミリ」まで認めるという事である。
「発生頻度が低い」というのがどのぐらいのことを言うのかについては別の文章を示しましが、およそ1000年か1万年に1度であり、今回の事故のように原発の運転が始まって40年ほどの事故で、地震の震度が6,津波の高さが15メートルですから到底、「発生頻度がきわめて低い事故」ではありません。日本では10年間に震度6以上の地震が13回来るのですから、かなりの危険度になります。
しかも、もし今度の事故が1万年に1度という評価をしたとしても、1事故あたり5ミリシーベルト(数年にわたる。典型的には5年で5ミリ)を超えることはできないのです。仮にこのような国内の指針が都合によっていつでも変更ができるということになると、指針自体の意味がありませんし、専門家も線量を決める根拠を持っていないことになります。
また日本は法治国家ですから当然ですが、ICRPという民間のNPOが勧告した通りではなく、日本国としてもう一度審査し、国内の基準を決めていたこともわかります。このような基準を決めた一人が中村佳代子さんで、彼女が原子力規制庁の委員になりそうになると、全く違う事を言い始めたのには驚きます。
・・・・・・・・・
少し長くなりましたので、今回は、
1) 被曝は危険と考えられていた、
2) 1年1ミリが法令上の基準だが、(被曝は危険なので)原発ではその20分の1にするようにしていた、
3) きわめて希に起こる事故でも数年で5ミリを超えないようにするとしていた、
4) このことは原子力の専門家なら誰もが知っていた、
ということをハッキリさせるにとどめます。
そして、ここに書かれたことを故意に、もしくは勉強せずに無視したり、逆のことを言う人は、子供に危険な被曝をさせるということでもあり、瓦礫の搬出でもわかるように懲役になるような言動であることを、国民が糾弾する必要があります。特にお役所に勤める公務員は懲戒免職が相当でしょう。人の健康に関する事ですから、賄賂などより重罪であることは間違いありません。
(平成24年9月17日)