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あるとき、自動車の大会社の技術担当重役にお会いしました。ちょうど良い機会だったので、私は電気自動車の将来性についてご質問をしたのです。

私は質問に対して、将来の市場性(つまり車として有望か、日本で売れるかどうか)などをお答えになるのではないかと思っていたのですが、驚いたことに彼は話を始められてから終わりまで、すべて「いかに安全な車が設計できるか」について微に入り細にいり、私に説明をしてくれました。

これこそ「技術者魂」なのです。どんなに素晴らしい車、最高速度が大きい新幹線、電気をもたらす発電方法、そして通信の優れた携帯電話を作っても、それが安全で、快適で、幸福をもたらすものでなければ「技術的作品」とは呼べないものです。

福島原発の事故に関して国会の事故調査委員会の結論が公表されたとき、あるテレビ局がコメントを求めたので、私は「一応の評価ができるものだが、技術的踏み込みが不足している」と言いました。たとえば事故原因が「人災」だったとしても、人災をもたらした人間関係、組織を問題にするとしても、技術者だったら、しつこく技術的問題を取り上げるからです。

その点で、福島原発事故のあと、まだ原発を推進しようとしている技術者がいるのは実に不思議です。福島の事故が起こるまで、軽水炉で、しかも日本の軽水炉で福島クラスの事故を起こすということは原子力の技術者は考えていませんでした。

だから、あの事故は技術者から見ると完全に失敗で、何が間違っていたのかを徹底的に考え、新しい設計をやり直さなければ到底、原発を推進する気にはならないからです。

私は、今の技術力では電気は火力発電がもっとも適していると思いますし、石油石炭天然ガスなどは1000年はあるのですから、少し頭を冷やして考える時間は充分あります.また100歩譲ってCO2による温暖化の効果が少しあるとしても、世界でCO2を削減しているのは日本だけですから、原発事故の後、しばらくは火力発電をするのに世界は何も異議を挟まないでしょう.

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原子力発電技術に少しでも携わった技術者の皆さん、私たち(原子力に関係した技術者)は次のように訴えようではありませんか.政治的なことなどに関心はあっても私たちの本業、技術の魂を守ろうではありませんか.

1. 私たちは原子力技術が日本のためになると信じて、技術の開発を行ってきました。決して、私利私欲ではなく、原子力の実用化によって日本が繁栄することが目的でした.

2. 私たち(原子力技術者全体:個別の技術者では軽水炉が危険だと言っていた方もおられます)が軽水炉を選択し、それを推し進めてきたのは負のボイド効果など原子炉の中では格別に安全性に優れていたからです.

3. 原子炉の固有安全性、多重防御などによって、震度6の地震や15メートル程度の津波で爆発するとは思っていませんでした。事故が起こってから「津波が15メートルだったから」といういいわけをしている人もいますが、私たち技術者は「震度6で津波が15メートルに達したら原発が爆発する」と言わなかったと記憶しています。

4. 私たちは個別の技術者がどう言ったかは別にして、技術者全体としては日本社会に「原発は安全です」と言ってきました。原発の安全性は技術者以外にはわかりません。だから今回の事故は私たち技術者の責任です。

5. 「震度6、津波15メートル」で爆発したとなると、私たちの安全の考え方に基本的な誤りがあったことを示しています。「固有安全、多重防御」が意味をなさなかったのですから、私たちは「基本的に考え直す」ことを表明する必要があります。

6. 当面、私たちの失敗によって国民に迷惑をかけたのですが、節電に協力していただき、できるだけ早く、もっとも技術的に完成している化石燃料の火力発電を早期に稼働できるように努力することが大切です。これがせめてもの国民に対する贖罪の一つです。

7. もう一つ、福島を中心として苦しんでいる人に、4500億円の原子力予算、カンパ、労働奉仕、被曝測定・・・なんでも良いですから、ご迷惑をおかけした人の生活の回復に原子力に関係した技術者全員で努力したいと思います。

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政治が技術に命令する事があります。でも、それによって技術者の魂が奪われるわけではありません。政治が「被曝限度は1年20ミリ」と言っても、私たち技術者がこれまで「被曝限度1年1ミリ」と決めてきたのです。

さらに原子炉の設計に当たっては「1万年から10万年に一度の事故に限って臨時に1年5ミリまで認める」という設計基準で審査をしてきました。今回の事故は日本で原子力を始めて40年ほどで起こった事故ですから、その意味では100年に一度。もし地震の規模という点で1000年に一度でも、1年1ミリを超える事はありません。

自分たちで決めたことには責任を持ちたいと思います。日本は科学技術立国であり、技術は単に学問的なものだけではなく、今後も社会に貢献する安全な技術を提供していく必要があります。その最も大切なのは技術者の魂、技術者の倫理であることは間違いありません。

(平成2484日)