ここに示したグラフは地震が起こる1週間前から地震が起きた当日にかけての伊豆半島の地震の様子を示したものです。3月5日過ぎから急激にマグニチュード(右目盛り)2程度の地震が頻繁におこるようになります。
このグラフは横軸に2011年の3月5日頃から3月11日までで、縦軸の棒グラフが一つ一つの地震振動、折れ線が「累積地震数=3月5日頃から数えたトータル地震数」です。京都大学の地震研究者のデータをサイエンス誌が掲載していました。
3月5日頃から急に地震が増え、とくに大地震が起きる直前には急激に増えて折れ点が見えます。 横軸は時間で折れ線の最後の●のところが大地震です。このグラフで何がわかるのでしょうか?
この余震を観測したとき、「大地震の予兆ではないか」と考えた地震学者もいたようですが、それを「学問的に結論づける」ことはできませんでした。つまり、「なぜ、これほどの兆候があっても地震が予知できないのか?」ということが問題なので、それを科学的に解説をします。
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地震にも数種類ありますが、簡単に言えば「固い岩石が地下の岩盤がズレる」ということです。一つの場所だけでずれれば何にも起こらないのですが、「地球の地下(地殻)」は「固い固体」でできていますから、どこかがズレて形が変われば、そのズレは日本列島全体に及びます。
大地震であるほど「大きくズレる」わけですから、震源に近いところは2メートルとか10メートルとかズレ、かなり離れたところ、たとえば日本海岸でも数10センチはズレるところもあります。
つまり、地震を予知するということは、「岩石同士がいつズレるか?」を予想することです。上の図で小さな振動が見られるのは大地震の前に小さな岩石のズレが起こっているということです。ところが、この小さなズレが数日後に大きな地震になるかがわからないのはなぜでしょうか?
よく道路に面した崖に大きな石が乗っていて、今にも落ちそうなことがよくあります。その崖の岩石が今にも落ちそうだ(近いうちに大地震が来そうだ)、でもそのまま30年は落ちていない(大地震が来ない)というのと同じで、「地殻に大きな歪みがある」というだけでは「明日か100年後か」はわからないのです。
ところで上の図を見た学者は、なぜ3月8日頃、せめて警告を発してくれなかったのでしょうか? その理由は、
1)もしかすると大地震の前兆だが、そうでないこともある(学問的な問題)、
2)そうでなかったら批判を受ける(社会的な問題)、
ということなのです。
つまり地震学者が予算を取りたいために40年ほど前、「地震の予知ができる」と誤解されるようなことを言ったので、自分で自分の首を絞めて、学問と社会の責任問題が絡んでしまったのです。
もともと「東海地震が来る」というのは学問的にウソで、「どこに地震がくるかどうかわからないが、東海地震を研究材料にして、いつの日か地震予知ができるようにしたい」と言うのが正しかったのですが、地震関係の天下り団体を作り、学者がお金をもらえるために、阪神淡路大震災、新潟付近の地震、そして今回の東北大震災の犠牲者を出したのです。
地震が起こった1ヶ月後には「東北地方の地震について」の研究会が予定されていたほどです。その1ヶ月前に、これほど明確な兆候があっても、「地震が来そうだ」ということも言えないという状態だったのです。
学問的に間違っていること・・・「原発は安全だ」、「被曝しても大丈夫」・・・などと言う学者がいるのですから、仕方がないのですが、「日本の原発は耐震性(震度6以上)も耐津波設計もされていない」、「被曝と健康の関係は学問的には不明で、目安があるだけ」、「地震の起きるメカニズムはわかってきたけれど、予知などはまだまだ」と勇気を持って言う必要があります。
国民の方も「地震予知は学問が進まないとわからない」と正しく認識し、目先の「役に立つ研究」より、「基礎研究を充実させることで日本国を立派にする」ぐらいの雰囲気ができないと犠牲者を増やすだけになるでしょう。
今度の東北大震災は私は「人災」と思っています。それはあたかも東海地震が予知できるようなことを言い、阪神淡路、新潟、東北の備えをおろそかにし、今でもその反省が見られずに、今でも予知できるようなことを言う人が跡を絶たないので、困ります。
東北大震災で犠牲になられた方の無念を思えば、「学者のメンツ」や「役所の責任逃れ」などにならずに、本当に「地震予知はできない」ということを前提に防災対策を講じる必要があるのです。
(平成24年7月8日)