今回は福島4号機のプールの冷却ができなくなった時、どのぐらいの時間が経つと水がなくなったり、放射性物質が空気中に出てくるかということを考えてみます。
福島4号機のプールには2010年11月頃に「使用済みになった燃料」と「定期検査のために使用中ではあるが臨時に格納されている燃料」の二つがあります。
いずれもすでに運転を止めてから1年半ぐらい経っているので、かなり崩壊熱(放射性物質が崩壊するときに出る熱)が減って、止めた直後の100分の1ぐらいになっています。もともと崩壊熱は核爆発の熱の10分の1ぐらいですから、原子炉の出力(100万キロワット)の1000分の1、つまり1000キロワットぐらいになっています)。
このような発熱とプールの大きさなどから厳密に計算をするのも良いのですが、このブログに乗せたように発熱グラフや計算はなかなか難しいので、むしろ簡単に考えた方が正確で誰もが自信を持つことができます。
燃料プールには下の方に燃料棒が並んでいて、全体が水につかっています。おおよそプールの高さは燃料棒の3倍ぐらいと考えられます。
先日(2012年6月30日)に4号機の冷却が止まりましたが、これは循環水が止まって、プールにたまっている水の温度があがりました。その様子から1時間に0.3℃上がっています。これは崩壊熱と水の量、比熱、放熱などから原理的にも計算できますが、実績を使います。
仮に4号機の冷却がまったくできなくなり、何らかの事情で人も近づけず、修理もできず、さらには新たな水も注入できなくなったとします。そうすると、1時間に0.3℃上がるので、30℃から100℃まで70÷0.3=233時間、つまり約10日間で沸騰が始まります。
放射性物質の崩壊は温度によりませんし、温度が上がると放熱や一部の蒸発がありますから、10日間としてそれほど間違いは無いでしょう。
【第一の結論】 4号機のプールが蒸発を始めるまでに10日ぐらいかかります。
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さて、100℃になるといよいよ水の蒸発が始まります。水というのは1グラムの水が1℃あがるのに1カロリーを必要としますが、蒸発の時には1グラムで539カロリーが必要です。つまり、30℃から100℃まで70℃あがるのに1グラムで70カロリーですから、その7.7倍の熱が必要と言うことになります。
燃料プールの水面から燃料棒の頭の部分まで水が沸騰するにはプールの水の3分の2が蒸発する必要がありますから、70℃から100℃までの時間10日に(7.7×2÷3)をかけただけの時間がかかります。
10*(7.7*2/3)=51日
【第二の結論】 福島4号機の冷却ができなくなった場合、できなくなった時から51日後に放射性物質が漏れ始める。
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52日目から水面の上に燃料棒が顔を出すので、若干の放射性物質が漏れ始めますが、まだ水があるのでそれが沸騰している状態で数日は100℃からそれほどは温度が上がりません。
そしていよいよ60日目(約2ヶ月後)から燃料棒が水蒸気と反応して温度があがり、セシウムなどの揮発性の放射性物質が飛散することになります。ただ上部がすでに何もないので、水素が出ても爆発はしません。
燃料の循環ができなくなって蒸発が始まるまで10日間ありますから、この間に「水を投入する」ということだけは可能になるでしょう。事故後に登場した「鶴首」のような放水装置があればプールに水を注ぐことができます。
必要な水の量は多くないので、外部からプールに水を注ぐことができると考えられます。それもできない場合、2ヶ月後から使用済み核燃料がむき出しになるので、少しずつ放射性物質が飛散することになりますが、空気で冷却されますから燃料棒が融けるほど温度が上がらないと考えられます。
もともと、使用済み燃料棒は原子炉から取り出してから5年後には水冷から空冷に変わりますが、1年半後(今)と5年後では崩壊熱は現在が1.6メガワット、5年後が0.8メガワットと計算されますから、約2分の1になるに過ぎません。つまり、今でもすでに「空冷でもギリギリ大丈夫」というレベルなのです。
【第三の結論】 4号機に近づけなくてもすでにかなり崩壊熱は低いので、大量の放射性物質が飛散することはない。
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検討するとこのようなことになりますが、「4号機の冷却が止まると関東一円に住めなくなる」と危険だと警告されている方の結論と余りに違い、事故が起こっても2ヶ月ぐらいの余裕があり、さらにその被害は2011年3月に比較して小さいということなので、さらに検討を加えたいと思います。
(平成24年7月5日)