国が20才の学生に「老後のために年金に入りなさい」と呼びかけている。さまざまな意味でこの呼びかけに違和感を感じる人が多いだろう。私もその一人だ。

 

まず「老後のため」という言葉から受ける印象は、「自分の老後のため」という感じだが、すでに自分が積み立てて自分がもらう「積立型」の年金は崩壊すると言われているし、現在の年金は「賦課型」(若い人が、その年の老人に払う)であるとも言われている。でも、それさえハッキリしない。増税の議論では「社会保障と税の一体改革」のような表現が使われていて、この社会保障の中に年金が入っているのかも明らかではない。

 

ここで「積立型か賦課型かわからない」とか「社会保障の中に年金が入っているか明らかではない」と言っているのは「今の政府がどう言っているか」ではなく、20才の若者が45年先、あるいは50年先にどのような形で年金をもらうのか、それが「わからない」ということだ。どうせ、今の政府が言っていることを事細かに調べても、いつでもコロッと変わるから調べるだけの意味も無い。

 

もともと20才の若者で、まだ学校に行っているので収入がない人が「50年後にもらうかも知れない年金」を「親からもらったお小遣い」から払うのが適当なのか、それもよくわからない。しかもこれまでの状態で、「積立型」の年金では物価の値上がりや生活レベルの向上、それに杜撰な年金管理などから20才代に支払った年金はほぼゼロになってしまっている。

 

最初からゼロになりそうな年金を収入のない学生が意欲を持って納めるにはかなりの無理があるだろう。せめて学生には、1)支給年齢を約束する、2)支給が開始されたときに生活保護費より少しは高い年金が支払われる、3)年金から税金、介護保険料などを差し引かれない、4)20才で年金を払い始める時の約束(たとえば途中で新しい徴収金がでるなどが起こらない)を守る、ぐらいは必要だ。

 

ただ口で約束するだけではなく、20才の学生が納得するだけの根拠を示さなければならない。たとえば、日本の赤字国債、アメリカの膨大な赤字などが将来にわたって大きな通貨変動をもたらさないことなどについて合理的な説明と政策を示さなければならない。

 

現在の年金問題は「制度」の問題ではなく、1961年から始まった最初の試みが、1)社会保険庁の使い込み、2)社会保険庁の記載不足、3)焦げ付くことがわかっている融資先への融資、などによって800兆円の年金支給に対して、帳簿上200兆円しか資金がなく、さらに現実的には150兆円が回収不能で50兆円が残っているという現状をまずは説明して、それを克服する具体的な方法を提示するのが厚労省の役割である。

 

「いつからもらえるかわからない、どのぐらいもらえるかわからない、もらっても徴収されるかもしれない」といういい加減なことで「お金を払え」というのもおかしいし、第一、「働いている人が老人を支える」という「働いている人」に20才の学生(自分)が支えると言っても、親が年金世代のこともあり、その親からお金をもらって年金を払うのも奇妙だ。

 

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日本人が新しい時代に夢見ることのできる制度=年金も、日本の政治家と官僚が「誠実で善良」でないことによって、かえって夢のない不安な将来を描くことになった。つまり、50年間にわたってお金を払い続けるというようなことが社会システムとしてできるためには、その前提として「政府が変わっても、社会が変化しても、約束は守ってくれる」という前提がなければならない。

 

しかし現在の日本政府(自民党時代も含めて)は、情勢の変化で不可能になったら簡単に約束を破って「仕方が無い」とか「無い袖は振れない」と言う。それでは50年間の年金をまじめに納める方がおかしいことになってしまう。

 

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私は福島原発事故で、事故前には「原発からの被曝の限度は、外部内部をあせて11ミリ、10万年に1度の事故に限り15ミリまで認める」、「1キロ100ベクレル以上は核廃棄物。核廃棄物を処理するには途中で高いベクレルになったら、もっとも高いところを基準にする」、「1平方メートルあたり4万ベクレル以上のところは汚した人が直ちに除染する」と決まっていた「明文化されていた」のに、それを簡単に覆し、社会もマスコミも「政府が国民との約束をはたさなかった」ということに何の抵抗も見せなかった。

 

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このことを私が重視したのは、「事故前に国民の間で約束したこと(法律)を、いとも簡単に政府が破るようでは年金も含めてほとんどの日本のシステムが崩壊する」と感じたからだ。年金のような長期間にわたる制度に対して信頼感がでるのは、システムの問題ではなく、政治家と官僚、それを監視する役割を持つマスコミが「誠実で善良」であるかどうかにかかっている。

 

 

 

(平成24510日)

 

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