2011年3月11日に起こった東日本大震災で、気象庁は最初、地震の大きさを示すマグニチュードを7.9と発表しました。7.9というのはかなり大きい地震という程度ですから、この発表を聞いて安心した人も多かったでしょう。
もともとマグニチュードを発表するというのは、学問だけで必要な数字ではなく、一般の人が知ることによって地震の大きさを知り、それによって避難するべきかなどを考える参考になるからです。地震が起こった直後は、正確な数字が必要であることは言うまでもありません。
それが大きく違っていたのですから大変なことですし、事実、津波の予測は最初の方のマグニチュードを参考にして計算されましたので、やや小さめの数値がでていました。それで命を落とされた人が多いことをかんがえると、私たちはこの問題をいい加減にしておいてはいけないと思うべきでしょう。
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一見して単純な計算ミスのように感じますが、実はかなり深い問題を含んでいること、気象庁の数値が不適切であることをたびたび指摘されていたこと、さらには発表の途中で間違いに気がつき、計算方法を変更したのに、どこから変えたのかすらハッキリしていないという隠蔽工作も疑われています。
今後、地震が予想されている中で、このような人災のもとを残しておいては、同じ轍を踏む可能性も高く、今回の東北大震災で犠牲になった人にも申し訳ないと思いますので、ここで明らかにしたいと考えます。
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地震の大きさを示すマグニチュードは、気象庁マグニチュードと、モーメント・マグニチュードという二つの数値があります。気象庁マグニチュードは日本の気象庁が独自に計算しているもので、震源地から異なる2つ以上の場所で測定した地震波から計算する方法です。この方法は迅速に計算値が出るという特徴が有りますが、地震が大きいときには正確ではないことも知られていました。
そこで東大地震から地震研の騒動の時にアメリカに渡った金森先生が研究されたモーメントマグニチュードを使うのが世界的な標準になっています。つまり、わかりやす言うと気象庁マグニチュードは被害が起こらないぐらいの小さな地震には役に立ちますが、東北大震災のように大型の地震では役に立たないということです。
すでにマグニチュードが8付近より大きな地震では気象庁マグニチュードが間違いであることがわかっていたのですから、自動的に二つの計算値を出して、正しい方を発表すべきだったのです。実際にはおそらく8.8という発表値からモーメント・マグニチュードを使ったと考えられますが、あまりハッキリと訂正を出していませんし、謝罪もしていません。
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金森先生は世界的にも有名で優れた先生ですが、日本がだしている最も大きな学術賞である京都賞をお取りになり、その時に「目的を持った研究はダメだ。学者が好きで研究したものでなければ良い結果は得られない」と受賞インタビューで言っておられます。
日本の科学をダメにしたり、原子力が衰退したのも「役に立つ研究」という文科省と東大が主導した学問とは無縁の研究でしたが、私は金森さんのインタビューを聞いて、立派な学者、学問を大切にする学者は皆さん同じことを言われると思ったとともに、「役に立つ研究」ほど「役に立たず、かえって災厄をもたらす研究」であることを感じるのです。
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仮に気象庁がメンツにこだわらず、モーメント・マグニチュードを使用していたら、津波の予想は遙かに精度が良くなり、その結果、亡くなった多くの方の命が助かったでしょう。「大丈夫だよ」、「そんな大きな地震など来るはずが内」、「アメリカに行った金森の言う方法なんか使えるか」など、人間的、空気的なことばかりが先行して、地震の計算のように純粋な学問の問題が人間的なことで汚れてしまったのです。
良く事故があると、その教訓を活かすことによってせめて犠牲になった人を弔いたいということが言われますが、その点で気象庁が今度の地震の大きさについての混乱の原因をハッキリさせ、反省を述べ、次の大地震までに何をするのかを明らかにしなければならないでしょう。
気象庁は官庁ですから、もしかすると気象庁は間違いをしない、謝りもしないと思っているかも知れませんが、学問の世界ですから、間違いは間違いとして訂正し誤ることをしないと気象庁という役所は成り立たないでしょう。
かつて私のように自然科学を目指したものにとっては、気象庁は誠実で純朴な役所のように思っていましたが、地球温暖化問題などで近藤先生も言われているように、学問的純粋さを失っているように思います。また原発事故の後も防災に最も重要な風向きを日本国民に知らせなかったのも、最近の気象庁の腐敗を物語っていると感じられます。
(平成24年5月9日)