アメリカが1970年代に衰退したことについて、今から30年ほど前に詳しい経済学の解説書を読んだことがあります。いろいろな数字でしっかり整理した本でしたが、結論は「現場にいないニューヨークやワシントンの連中がアメリカをダメにした」というものでした。

 

人間の頭脳というのは実にダメなもので、頭脳が間違った判断をしようとするのを止めるのは、「現場」と「辛さ」の2つのように思います。現場はいやでも事実を目の前に突きつけますし、辛さは傲慢になった自分の心を直し、事実を見ることができる勇気を与えてくれます。

 

アメリカは、その後、シリコンバレーなどを中心とした情報産業で最後の火をともすのですが、現場にいない人の支配は変わらず、現在は衰退の一途をたどっています。国が発展するときには、「現場が活躍し、失敗を飲み込み、根菜類を食べる」のが特徴で、現場から離れ、失敗を塗布し、くさい野菜は食べないようになったら、その国は衰退し始めます。あのローマもそうでした。それが栄枯盛衰であり、諸行無常でもあるのです。

 

人間、特に頭で考える人間が「良い」と思うことは、個別には確かに良いこともあるのですが、全体を見ると悪い方向になることはしばしばあって、このようなことは哲学や物理学では普通のことですが、経済学でも「合成の誤謬」と言っていますし、お釈迦様も中庸と教えておられます。

 

イエス様が「貧乏な方が天国に近い」と言われたのも同じで、人生の真実を見ることが難しいように人間社会で「お金があると不幸になる」と思っている人はそれほど多くはないでしょう。普通はお金があった方が幸福になると信じて不幸になっているように思います。

 

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明治維新(もしくは開国)以来、50年間、日本は日露戦争に勝ってしばらく、現場が活躍し根菜類を食べたのですが、それからの35年、軍では中枢部が指導するようになり、だんだん非現実的になって戦争に負けました。戦後も、最初のうちは松下幸之助、本田宗一郎というような現場型の人が産業を指導していましたが、やがて40年から50年を経てバブルが崩壊すると、頭だけで考えた東京型思考が日本を衰退させていきます。

 

たとえば、積み立てても意味が無いことが最初からわかっていた年金を始めたり、空気も水も綺麗で環境が悪くないのに頭だけで環境が大切だと言ってみたりということが起こり始めるのです。そして、今では地方の現場の工場が軽視され、本社の部隊が幅をきかせるのと同じように、東京でビルの中で仕事をしている人たちが実権を握るようになりました。

 

なんと言っても東京の食糧自給率は1%、工業もほとんど無くなりました。それでいて東京は地方の2倍近い所得をとっています。実に不思議です。たとえば税金というのはもともと働いている人の生活を豊かにするために税金を払っているのですが、「税金を払っている人が苦労し、税金をもらう人が楽をする」という奇妙な社会になってしまったのです。

 

「国民は増税反対だが、財務省が増税を進めている」という話は、それ自体が「税金」というものの論理に反するものです。国民が税金を納めるのは「喜んで納める」からであり、「いやいや納めるなら税金ではなく、お殿様の徴収金みたいなもの」だからです。

 

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東京の電気を原発でつくり、東京は使うだけ、地方は危険な原発を動かし、廃棄物を処理するというシステムは、まさに今の増税路線とおなじく、本来は地方の召使い、国民の公僕だったはずの人たちが力をつけていつの間にか主人になってしまったことを意味しています。

 

今回の震災の瓦礫の問題も「中央が決めたことだから、地方が汚染されようがやれ」という感じですが、なんでも東京をみてそのご機嫌を取っている地方自治体の首長さんは少しプライドをもって考えなければならないでしょう。

 

もともと、東京はなにもできません。食べ物もつくれず、GDPにも貢献できないのです。それにも関わらず、地方は自らの努力を怠り、中央の補助金、交付金、工場誘致など「東京頼み」だけの政策を採っているように見えます。

 

私は良く地方に行きますが、地方の回復は1にも2にも東京からの脱離にあるとおもいます。それには、1)明治の初めのように東京の人が東京の利権を考えるのではなく、地方の力を増やして日本全体が栄えるように我が身を捨てる(万機公論に決すべし・・明治天皇の五箇条のご誓文)、2)地方の人が外国と直接渡り合えるように自分で考え、努力する、の2つが必要なように思います。

 

最終的には現場にいる地方が力を持たないと日本は衰退していくでしょうし、それに東京が我が身を捨てて協力することこそ日本人なのでしょう。「失敗を認めない」、「うまく言い抜ける」などは現場には関係がありません。言葉だけを使って人生を送っている人だけの特殊な文化、それが今の東京の幻想なのです。

 

原発の爆発すら認められない、事実を認めることはできない・・・そんな文化が技術者の方まで波及しているのですから、かなり重傷でしょう。なんとかこれを覆して明るい日本を作りたいものです。

 

 

 

(平成2456日)

 

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