日本人が「大規模」に被爆し、その健康に関するデータが「長期間」にわたって得られるのは、不幸なことですが広島・長崎のものです。そして、その総合論文が今年(2012年)、放射線影響研究所からでました。被爆と健康に関する研究ではもっとも権威のある機関でもあります。

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福島原発で多くの人が被爆している最中ですから、本来ならこの論文は毎日のようにテレビ、新聞で報道され、解説されているはずですが、論文内容が「政府に都合が悪い」ということで、ほとんど報道されていません。

 

なぜ、この論文が政府に都合が悪いかというと、
1) 「これ以下なら安全」という「閾値(しきいち)」がないことを明確に示していること、
2) 低線量被爆でも「被曝量と病気の発生」には比例関係が認められること(直線近似が成立すること)
3) 福島の小学生が被爆した、20ミリシーベルトで子供がガンになる可能性は100人に2人程度と高率になること、
が明らかになったからです。現時点で専門家でこの論文の結論と異なることをいうことはできないでしょう。科学者や医師は事実に忠実ですから。

 

もともと、日本の法律で「被曝限度は11ミリ」と決まっていたり、チェルノブイリの時に15ミリ以上の地域が強制退去地域になっているのは、断片的ですが、この論文と同じ知見がかなり多かったことによります。もちろん「1100ミリ以下はデータがない」などは完全なウソです。子供の健康のことですから、これまで間違っていた専門家はすぐにでもこの論文を読んで、訂正と謝罪をしてください。

 

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論文内容は少し専門的になりますが、ご紹介します。
学術雑誌名:Radiation Research(英文)
論文題目:「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14 報、19502003、がんおよび非がん疾患の概要」

 

概要:   1950 年から2003 年まで約10万人の健康状態を調査し、死因についての被爆の影響を明らかにした。がんによる死亡(総固形がん)の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して「全線量域で直線の線量反応関係」を示し、「閾値は認められず」、リスクが有意となる最低線量域は0200ミリシーベルトであった。

 

具体的には、30 歳で1シーベルト被曝して70 歳になった時のがんの死亡は、被曝していない場合に比べて42%増加し、また、被爆の時の年齢が10 歳若くなると29%増加した。従って、20歳で被爆すると83%の増加になり、ほぼ2倍になる。がん以外の疾患では、循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患でのリスクが増加した。

 

解説:   個人が被爆した量と死因別の放射線リスクを総合的に解析した初めての報告である。対象は、被爆者で個人線量が推定される86,611 人、調査期間中に50,620 人(58%)が死亡し、そのうち総固形がん死亡は10,929 人であった。低線量率で若干の緩和がみられるが、直線関係を否定するものではない。

 

この論文で言う「過剰相対リスク」とは、相対リスク(被曝していない場合に比べて、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す)から1 を差し引いた数値で、被曝による相対的なリスクの増加分を表している。

 

(注)放射線影響研究所は、広島・長崎の原爆被爆者を 60 年以上にわたり調査してきた。その研究成果は、国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)の放射線リスク評価や国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護基準に関する勧告の主要な科学的根拠とされている。

 

Radiation Research 誌は、米国放射線影響学会の公式月刊学術誌であり、物理学、化学、生物学、および医学の領域における放射線影響および関連する課題の原著および総説を掲載している。

 

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政府機関、自治体、御用学者、ご用専門家、テレビ、新聞はあまりあてになりませんが、国民の健康を守り、子供を守るという見地から、大学、医師会などに所属する良心的な方は、積極的にこの論文の結果(おそらくもっとも総合的で、現時点で正確なデータと考えられます)を尊重し、政府に対して被曝の防止(福島の除染、拡散防止、汚染食材や瓦礫の搬出防止など)をするように力を発揮してください。

 

またテレビ、新聞もうっかり政府の誘導に乗った1年でしたが、本来の報道の目的である、「やや政府に批判的で、事実を伝え、視聴者や読者を危険から守る」ということに戻り、この論文を多くの人が知るようにしてください。

 

その時、論文を書いた研究者ではなく(研究者は社会に対して倫理的責任を負わない)、科学者、啓蒙家が解説をするのが適切です。

 

 

 

(平成24428日)

 

(注)本記事の内容の一部は読者からの情報によっています。

 

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