今回は、「肺がんの原因はタバコである」ということは、イコール、「タバコを吸うと肺がんになる」といえるのか、それを「ゆっくり」と考えてみます。
1960
年頃、成人男性の総人口が5000万人、喫煙者は4000万人、肺がん死数は2000人でした。ここではとても難しいタバコの問題を一つずつ考えていくために、急がず、数字と論理の問題から取り組んで行きたいと思います。まず、5000万人では集団の数があまりに数が多くて実感がでないので、同じ比率で少し小さい集団を考えてみます。つまり人口5万人の市で、喫煙者が4万人、肺がん死2名だったと考えてみます(全部1000分の1)。

 

まず、この市で肺がんで死んだ人は70才で2人ともスモーカーだったのですが、ほぼ平均寿命とします(タバコを吸っている人が肺がんで亡くなる時期がどうかという問題は全体の論旨に影響を及ぼさないので、このまま整理を続けます)。喫煙者が4万人もいるのに、肺がんで死んだ人(肺がんは致死率が高いので肺がん死と肺がんはほぼ同じだった)はたったの2人。後の39998人は元気か、あるいは他の病気で死んでいることになります。

 

でも、ここでやや難しいことを説明しなければなりません。それは「事故による死亡」の場合は全人口を対象とし、平均年齢近くで死亡するときには「死亡した原因」で整理するということです。
たとえば、交通事故で亡くなる人は年齢によらないので、交通事故死が1万人の時には、全人口1億人に対して事故確率1万分の1とします。日常的な生活をしている時に交通事故にあう可能性は1万分の1ということです。
交通事故死の確率は小さいように思いますが、そうでもありません。人間は約100年生存しますから、毎年10000分の1の確率なら、生涯に100分の1になるので、100人に一人が交通事故で不慮の死を遂げるということになります。

 

タバコを吸って肺がんで死亡するのは「病死」なのでしょうか? 「不慮の死」なのでしょうか? それによって若干取り扱いが変わります。つまり「タバコを吸うと肺がんになる」という表現は、「タバコを吸うと若くして肺がんになることがある」ということなのか、「タバコを吸っていても平均寿命付近で死ぬが、その原因が肺がんの場合が多い」ということなのかで変わるからです。

 

もし、「肺がんの原因はタバコであり、早く死ぬことが多い」とすると、タバコを吸っていた40000人のうち、39998人が肺がんにならず、2人だけ肺がんになったのですから、「タバコを吸うと肺がんになる」と言うのはかなり大げさで事実を表していないことになります。

 

次に、タバコを吸ってもあまり平均寿命はかわらないので、「死んだ人の死因の一つ」と考えると、タバコを吸っている人で死んだ方は400人程度で、そのうち2人が肺がんで死んだということになります。

 

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ここまででまとめてみましょう(タバコも交通事故と同じ不運が起こるとすると)。
タバコでその年に肺がんで亡くなる人  20000人中1
交通事故でその年に亡くなる人     10000人中1
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そうすると次の言い方は誠意ある言い方でしょうか?
タバコを吸うと肺がんになるからタバコを吸ってはいけません
外に出たら交通事故に遭うから外に出てはいけません
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また「原因」を表現すると、
肺がんで死ぬ人の原因はタバコです
交通事故で死ぬ人の原因は外出です
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結局、論理的には、
タバコを吸ったから肺がんになるとはいえません。
外出したから交通事故に遭うとはいえません
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「外出しなければ交通事故に遭わない」(タバコを吸わなければ肺がんになりにくい)は良いのですが、「だから外出してはいけない」(だからタバコを吸ってはいけない)という表現はこのような整理をする限り不適切であることがわかります。また「交通事故の原因は外出だ」(肺がんの原因はタバコだ)は良いのですが、「外出すると交通事故に遭う」(タバコを吸うと肺がんになる)も不適切です。

 タバコについて、かなり整理が進んだと思いますが、「人間にとって外出も大切だから、交通事故に注意しよう」と言うぐらいが適切とすると、タバコも同じぐらいの確率ですから「気分転換にタバコも良いが、吸い過ぎには注意しよう」ぐらいが妥当と言うことになります。

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(平成24428日)