私が大学の頃、まだコンピュータができたてだったので、レバーを操作して2進法で命令を入れたものです。しばらく経つと、それがテープになり、テープに空いた穴で数字もアルファベットも読み取って機械語でプログラムを書いたものです。

今から見ると、当時(40年前)のコンピュータは思うようにならず、やっかいで面倒なものだったのです。そのうちにだんだん進歩してきて、今では機械語はもちろん、コンピュータ言語を知らなくても自由自在に扱えるようになりました。

大変結構な時代になり、私たちはテレビや新聞を見なくても十分に情報を得たり、楽しんだりすることができるようにもなったのです。でも、人間というのは奇妙なもので、良いことがあると必ず悪いことがあるという感じです。

10
年ほど前、私が大きな手術をした後、私は眼科でしたが、入院していた病院の精神科の先生とすっかり意気投合して、いろいろな情報をお互いに交換したのですが、その精神科のお医者さんの話で印象的だったのが、「コンピュータをやっている人の精神病は治しにくい」と言うことでした。

20
才ぐらいからコンピュータを扱い、30才ぐらいになると統合失調症のような症状を見せる患者さんがおられると言うことでした。実は私もその当時、コンピュータ・シミュレーションを担当させている学生にある特徴があることに気がついていました。

私の研究室は、実験する学生とコンピュータで計算する学生のグループがあったのですが、実験する学生の方は和気藹々とやっているのに、コンピュータのグループはいつも喧嘩して分裂してしまうのです。

その状態が精神科のお医者さんが言われる内容とそっくりなのでびっくりしたものです。そのときの先生と私の結論は「コンピュータはなんでも言うことを聞くので、自分が偉いと錯覚し、言うことを聞かない友達に腹を立てる」と言うことでした。

つまり、コンピュータでは”master and slave”の関係になるのですが、日本語では「主人と奴隷」と言うことです。主人が命令したことは奴隷は文句も言わずに聞いてくれる、そんなコンピュータを扱っているうちに、「なぜ、あいつは俺の言うことを聞かないのだ!」という精神病になるということです。

すでに名前がついているかも知れませんが、私は「マスター病」と名前をつけました。つまり、どんな相手でも「自分が主人で、おまえは奴隷」と錯覚する病気です。

この病気はコンピュータを扱う人ばかりではなく、自動車を運転する人(自動車は自分のいうことを聞いてくれる奴隷だが、他の自動車や歩行者は言うことを聞かない人間)、会社の購買担当(ものを買ってもらいたいと出入りの業者に毎日ごまをすられている)、東大教授(あまり実力はないのに、いつもチョンチョンされている。私の恩師のお一人はそれで東大教授を若くしておやめになりました)、下請けを使っている大会社の人(電力を含む。特に若いうちから下請けとの関係ができるとおかしくなる)・・などが見られます。

コンピュータを前にしてネットで仕事や遊びをしていると「こんなに便利で楽しいものはない」と思いますが、それが落とし穴なのでしょう。昔のあの「言うことを聞かないコンピュータ」ならこんなことは起こりえません。

もしかすると、2チャンネルとかツイッターなど、すばらしいネットのシステムも「マスターばかりが集まる」ので、喧嘩にならなければよいなと思います。どんなすばらしいシステムでも人間が使う限り、人間の心の問題が発生します。それをいかに回避してコンピュータの良いところを生かすことが人間の知恵というものでしょう。

私もよく体験します。ブログの攻撃やネット上の批判を見ていますと、普段、私に直接、お話をする人の言葉使いとは全く違うのです。なにか、鬼か蛇が攻撃してくるような感じがします。それもかなり内容が高度で、「この人はかなりの人だな。もしかすると大学教授ではないか?」と思うぐらいなのに、その文章や攻撃の仕方は実に激しく、失礼で、かつ自分の名前すら名乗らないということが多いのです。

攻撃してくる人の目的がわかりにくいこともあります。ものすごい勢いで攻撃してくるので、丁寧に説明すると、どうも何か知りたいということではなく攻撃自身が目的なのかなと思うことすらあります。見ず知らずの人で利害関係もなく、相手の言っておられることが理解不能になることすらあります。

単なる感想や苦情などは匿名でも良いですし、自分が被害を受けるから匿名でというならわかるのですが、本来なら名を名乗り、理由を述べて質問や議論すれば良いのに、匿名で口汚く罵る人にネットでお会いすると、もしかするとマスター病になっているのではないかとかわいそうに思います。

ネットをやっているうちに、少しずつ自分の心が傲慢になり、マスター病にかかった人、その人は自分の思うとおり行かない周囲の人とだんだんと疎遠になり、家族とも喧嘩が多くなり、そしてやがて不幸な人生の道に入っていくでしょう。コンピュータを介しているだけで、その向こうにいる人はやはり思うようにならない人間なのです。

それに気がつくのが第一ですが、なんとか、コンピュータに人間味(使う人の思うようにならないシステム)を入れていかなければならない時期かも知れません。

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