中国のことわざに「遠交近攻」というのがあるように、近い国というのは難しいもので「戦争が普通で平和は珍しい」ということです。日本は四面が海なので、朝鮮や中国、ロシアなどの隣国とは歴史的にもそれほど争いがなく、平和だったと言えるでしょう。
それでも、なにしろお隣ですから勢いが良くなると相手の国に進入したくなるもので、古い時代は中国や朝鮮の方が先に発展しましたから、たとえば9世紀などは新羅という朝鮮の国が7回も日本にちょっかいを出してきましたし、13世紀には有名な「元寇」があり、中国と朝鮮の軍隊が2度に渡って大規模な戦争を仕掛けてきました。
このときに占領された対馬・壱岐などは住民が皆殺しにあったとされています.日本が本格的に攻められたのはこの元寇が最初ですから、当時の鎌倉幕府は仰天し、必死で防ぎ、その影響は日本社会を変えるほどだったのです.
ところが、15世紀過ぎから少しずつ今度は日本の勢いが強くなり、16世紀には豊臣秀吉の朝鮮進出があり、結果的には失敗しましたが、朝鮮に大きな打撃を与えました。それから暫く徳川時代は日本が鎖国をしたのでなにもなかったのですが、19世紀の終わりから植民地時代と帝国主義の時代に日本が朝鮮、台湾、中国の一部に進出したのです.
つまり、5世紀から15世紀までの1000年間は中国や朝鮮が日本を攻め、16世紀から20世紀の500年間は日本が両国を攻めたという歴史的な関係だったのです.このような歴史と、名古屋の河村市長が従来から発言しているのは、「中国の南京で30万人が日本軍に殺されたというのは本当だろうか?」という疑問と、「日本と中国の関係を良くするには、どうしたらよいか」ということはどういう関係でしょうか?
私は次のように考えます. もし中国や韓国と日本が「良い関係」を希望するなら、あまり過度に過去のことを問題にして、自分の国が被害を受けたと強調しない方が良いと思います.「遠交近攻」という中国の言葉はそれを言っていて、お隣同士は領土問題もあれば、人の行き来もある、経済的にも関係が深いのですから、どうしても諍い(いさかい)が起こります.
だから、もっとも良いのは「過去のことをあまり問題にしない」、私の言い方では「昨日は晴れ(過去にイヤなことがあっても、過去は2度と来ないから、「晴れている」と思えば思える)」と思うことですが、それでは心が晴れないというなら、できるだけ史実に近いことを明らかにしなければなりません.
日本軍が南京に侵攻したとき、日本軍と中国軍の間にそれまでの戦争にはない事態が発生しました。それが「敗残兵」、「便衣兵」、「民衆」の区別の問題です.
戦争というのは「兵隊と兵隊」が殺し合い、多く殺した方が勝ちという日常的には考えられない非常識なもので、多くの人を殺した将軍が英雄になるという実にバカらしいものです。
普通の生活なら多くの人を殺したら「殺人鬼」ですから、「鬼」と言われるのですが、戦争の場合は勝った方が英雄で、多くは戦争が終わったらら「王様」や「大統領」になることもあります。つまり戦争というのは普通の時とは違う非常識な時間なのです。
ただ戦争にはルールがあり、その一つに「殺し合うときにはお互いに軍服を着る」と言うことでした。何しろ「多くを殺した方が勝ち」という変なことですから、それをする人は一般の人と違って、特別な格好をしておかないと判らないからです。
軍人が勇ましい軍服を着て突撃するのは、「自分はおまえを殺すから、おまえも俺を殺して良い」ということなのです。
この絵はプロイセンの歩兵が戦場で進軍する様子ですが、いくつかの特徴があります。まず「戦場」であること、「軍服」を着ていること、「軍旗」を掲げていることです。つまり、戦争とは「特別な場所で、一般人と区別のできる服装をして、自分がどの国に所属しているか明確にする」という3つの条件が必要なのです.
これによって「一般人に戦争の被害が及ばないようにする」ということが可能だったのです.つまり「戦争は整然と行わなければならないし、殺し合うのは軍人同士でなければならない。戦場で戦っている間は殺すのは犯罪ではないが、戦闘が終わったり負傷したり、捕虜になったりしたら殺してはいけない」というようなルールもあったのです.
ところが、南京侵攻の時にはこの「軍服」、「正規兵」などに混乱が生じました。中国軍の兵士が捕虜になって殺されるのを恐れて軍服を脱いだり、住民がその軍服を盗んで着たり、普通の服を着た兵士(ゲリラ、便衣兵)がゲリラ攻撃をしたり、いろいろなことが起こりました。その結果、南京市街戦の後、混乱した戦場で軍人か民間人か判らない中国人が1000人ぐらいから最大で1万5000人ぐらい銃で撃たれて死亡したという記録があるのです。
この問題は日本と中国や朝鮮のこれまでの歴史の中で「特筆しなければならないもの」なのでしょうか? それについて、次回に少し整理をしてみたいと思います.
(平成24年3月9日)