福島の被曝の問題が出てくると日本の医療関係者、特に国立のガン研究の医師たちは一斉に「被曝はたいしたことはない。それより野菜の不足の方が発がんには危険だ」と奇妙なことを言い出しました。

 

野菜とガンの関係については、今から20年ほど前から研究が始まり、初期のころには次の表にあるようにどちらかというと「野菜はガンを防ぐ」という研究報告が多かったのです。

 

 

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それを受けて、マスコミなどを中心として「野菜を食べよう!」という運動がはじまりました。でも、もともと人間のガンの発生というのは非常に複雑なことなので、「野菜とガン」などという簡単な関係はおそらく存在しないのではないかと思われます。

 

その証拠に、その後、調査人数が増えてくると必ずしも野菜不足がガンをもたらさないという大規模な調査が2005年以後は増えています。

 

 

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ある程度、学問や科学というものを研究した人ならわかることですが、ガンというのは非常に複雑な反応ですし、一口に「野菜」といっても内容はさまざまですし、また「野菜を食べたので、相対的に食事が減り、その中に発がん性のものがあった」ということもあり、その場合は「野菜」というのは要因の一つにはなりません。

 

だから、仮に初期の研究のように「野菜を多く食べる人にガンが少ない」と言うことが判っても、それ故に「野菜はガンを防止する」ということにはならないということです。また、「それでも事実、ガンが少ないのだから」というのも学問ではなく、最近の野菜の研究の中には、カリフォルニア等の20万人の調査で、野菜をとると病気の比率が高いという研究もあります。

 

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私は科学者として、少し別の見方をしています。先回、「相関関係」だけでは何の結論もでないことを示しましたが、科学では「因果関係」についても常に同時に考えておかなければなりません。

 

人間は雑食性の動物ですが、主として「肉、穀類(実)」などを食べる動物で、「草」の類はそれほど取りません。人間が野菜を食べるようになったのは農耕文化に変わってからで、日本ではさらに10世紀から15世紀になってから意識的に野菜をたべるようになってきました。

 

草食動物ではない人間は草は消化できませんが、コメ、麦、イモ、豆、リンゴのような「実(種)」は主食や副食として積極的に食べてきました。そして、多くの研究が示しているように、動物の体は「数万年間の環境の中でもっとも適切な防御系になっている」ということですから、500年前頃から食べ出した「葉物野菜」などが人間の体に良いということになると、かなりこれまでの学問とは異なる結果と言えます。

 

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現在の日本ではほとんど宗教ではないかと思われるほど「野菜主義」のようなものが常識化していて、「野菜は健康に良い」というのを疑う人はいません。そしてそれが「科学」や「学問」の裏付けがあると錯覚をしています。でも、そのような情報の伝え方は「知の侮辱」でもあります。

 

私は学生(研究生)に対して、「「Aを変えればBがどうなるか」という実験の整理は危険です。自分ではBに対してAが一つの因子として関係があると考えていると、どんな物でもある程度の相関性がありますから、間違った結論が得られます」と指導します。

 

このようなことは「科学者の基礎教育」ですが、現代の社会はあまりにも「知の初歩的制限」を無視したものが多く、お医者さん、科学者や学者の方は注意をされた方が良いと思います。

「takeda_20120208no.420-(9:33).mp3」をダウンロード

 

 

 

(平成2428日)

 

(注)記事のデータに一部に(財)食生活情報サービスセンターのものを使わせていただきました。