端的に言えば、「放射線で被曝しても病気にならなければ良い」ということです。キュリー夫人がラジウムの崩壊を発見してから、およそ100年。レントゲン写真、原子力発電など人類は多くの原子力科学を「人間の人生をより豊かに、健康に送ることができるため」に使ってきました。

 

その中には原子爆弾のような間違いもありましたが、それは間違いであって、原子力という科学が本来、目指しているものは「幸福と健康」に他なりません。間違えないようにしたいのは、原子力が目指すものは「電気」とか「兵器」ではないのです。

 

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もしも原子力が電気を起こしたり、肺結核を検査することができるだけなら問題がないのですが、「放射線の被曝」というやっかいなものを伴うので、そのバランスが大切になります。そこで、「被曝と健康」という関係は原子力にとって最重要なテーマでもあったし、また今後もありつづけると考えられます。

 

人間は約600万年前に誕生して以来、ずっと「自然からの放射線」を浴びています。なにしろ、太陽が巨大な原子炉ですし、宇宙のエネルギーのほとんどが原子力エネルギーですから、自然界に放射線があるのは当然で、人間はそれを浴びることになります。

 

日本では平均して1年に1.5ミリシーベルトで、東日本は少し低く、西日本は高い傾向があります。これは放射線をだす岩石が西日本に多いからです。そのほかに宇宙線やカリウムの中の放射性同位元素などからも被曝します。

 

世界では自然放射線が強いところがあります。極端な場所は別にして、古い岩石の多いところなどで高いところがあるようです。平均は1年に2.4ミリシーベルトぐらいになります。

 

人間ばかりではなく、あらゆる生物はその環境で最適になるように体ができていて、それは自然淘汰で決まっています。たとえば、放射線にとても弱い生物はもともと地上で生きていくことができませんし、自然の放射線が強いところには「被曝に強い生き物」が競争に勝ち残りますし、放射線が弱ければ「被曝には弱いけれど、他の攻撃には強い」というような生物が残ります。

 

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たとえば、有名な遺伝子障害(被曝が原因では無いと考えられているが)に「鎌形赤血球貧血症」という病気があります。この病気は遺伝的にヘモグロビンの異常があり、多くは30歳ぐらいで重度の貧血を起こして死亡します。だから、「普通の環境のところ」では鎌形赤血球貧血症の人はほとんどいません。

 

30歳で死亡する人より60歳まで生きる人の方が子供を作るチャンスが多く、また社会の競争にも勝てるからです。

 

ところが、マラリアが蔓延する地方(亜熱帯)では、この病気が多いのです。その理由は、昔はマラリアにかかったら25歳で死に、マラリア原虫(マラリアのもと)は鎌形赤血球の人には感染しないからです。つまり、鎌形赤血球貧血症になれば30歳で死にますが、マラリアにかかると25歳。そして鎌形赤血球貧血症になればマラリアにはならないので、25歳で死を迎えることなく、30歳まで生きることができるからです。

 

両方とも哀しいのですが、自然淘汰というのは厳しいもので、25歳でマラリアで死ぬような地方では、それより少しでも長生きするチャンスがあれば、それが30歳で死ぬ病気でも、そちらを選ぶのです。

 

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このようなことなので、日本人の場合、11.5ミリシーベルトまでの自然放射線なら「一応」安全と言うことができます。ここで「一応」と括弧をつけたのは、「自然にある放射線だから安全」というのは何の根拠もないということです.むしろ、厳密に言えば「自然放射線だから、あきらめる」と言った方が科学的・医学的には正しいと言えます。

 

なぜかというと、生物の歴史は自然放射線や太陽からの紫外線との戦いでした。初期の頃の生物は空から降ってくる放射線や紫外線でガンなどの病気になり、抵抗力をつけていきました。そのような戦いの結果、今では「一応の人生を送ることができる」ということだけで、現在、1年に30万人の方がお亡くなりになっているガンのうち、どのぐらいが「自然放射線による被曝が原因」しているかは「医学的に不明」だからです。

 

「不明」というのは「安全」とは違います。ヨーロッパの被曝専門の医師が言っているように、「現在のガンのある程度は、放射線によるものだから、医療用被曝も注意が必要」というのが本当なのかも知れないのです。

 

つまり、「自然放射線だから安全」とか、「自然放射線が1.5ミリだから、それ以下は大丈夫」というのは医学的にも論理的にもなんの意味もないのです。仮に人工放射線が11ミリとすると、合計で2.5ミリになりますが、「1.5ミリの被曝が安全だから2.5ミリは安全」というのも非科学的です。

 

政府の人が事故を小さく見せるために、放射線医療の専門家が放射線医療をやりやすくしたいために、新聞がよい子を演じたいために、「大丈夫だ」と言いたい気持ちはわかりますが、「自分の利益のため」ではなく「被曝する子供たちのことを考えて」発言して貰いたいものです。

 

(平成24126日)