現在のように多くの人が科学的知識を求められているとき、専門家

 

(解説者)はどのように社会に対して正しいことを発信するかは非常に難しい。もちろん、科学だから厳密に正しいことが求められるが、それを追究すると結果的に誤解を招くことがある。

 

「伝達」や「情報」は相手のあることだから、相手がどのように理解するかを考えなければならない。原発事故の直後、国のミスリードもあって、多くのお母さんは「家の中の放射線は外から来る」とか「原発から放射線が来ている」と錯覚し、「家の中に放射性物質がある」とは思わなかった。

 

そこで、今では常識になった「除染」の「染」が「染める(そめる)」という字なので「ぞうきんで拭く」というのとあまりに語感に開きがあり、なかなか理解されなかった。そこで、間違いを承知で「除洗」という用語を使ったら、部屋の中をぞうきんで拭いてくれるお母さんがでて、その人からの情報で多くの人が濡れたぞうきんで室内を拭いてくれるようになった。

 

その結果、室内の放射線量は3分の1から5分の1になって、幼児の被曝の危機はひとまず回避された。ただ、「武田は除染という字を間違えている。アイツは専門家ではない」というバッシングも受けた。社会はすべてを一度に納得させることは難しい。

 

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今、同じ問題がセシウムとストロンチウム、プルトニウムなどの「核種」、「化合物」にある。事故の時に原子炉からでる放射性物質は希ガスをはじめとして、ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウム、ウラン、バリウム・・・など膨大な元素があり、それぞれの元素にはまた同位体の種類があるという超複雑な状態だ。

 

一方、それを理解しなければならないお母さんは、毎日、子育てと家事、あるいは仕事に追われて細かいことを勉強する時間などない。しかし、日本の子供を最前線で被曝から守っているのもまたお母さんである。そこで、どのようにお母さんにこの複雑な化合物、元素を伝えるか、そこに工夫がいる。

 

すでに希ガスはどこかに行き、ヨウ素は半減期を大きく過ぎた。これからはセシウム、ストロンチウムを中心に考えなければならない。この二つの元素は、「プラスイオンになりやすく、原子炉では6%程度できる」という点では「双子」であるが、沸点、融点、化合物の形、水溶性などではかなり異なる。

 

だから「双子」と書くと専門家からかなり批判されるが、といって、お母さんがこの2つを区別する必要があるかというと、それより大切なことが多いので、セシウムとストロンチウムは「双子、兄弟」としてもそれほど問題が起きないような気がしている。

 

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やはり、希ガス、ヨウ素、(セシウムやストロンチウム)、プルトニウムぐらいを覚えるのが精一杯だと思う.その点では半減期が30年で筋肉や骨にたまり、病気の元になる物として防御した方が良いと私は思う。また時期によっても違うだろう。最初はヨウ素に注意して貰い子供の甲状腺ガンを防がなければならないが、事故から半年から数年はセシウムとストロンチウムが危険なので、徐々に個別の性質を理解することも必要と思う。

 

ただ、何を言うにしても、専門家(解説者)はバランスよく、一つの面からや、自分の考えだけをそのままストレートに社会に言うのではなく、全体像を示し、その中で「標準的なこと」と「先端的な知識」を分けることも必要と思う。この場合、わかりやすいというのと、科学的間違いを厳密に区別しなければならない。

 

(平成231114日)