川のエネルギーは、1)河畔の樹木を育てる、2)川のサカナや藻を育てる、3)土砂を運んで平野を作る、などに消費される。日本の東京、名古屋、大阪をはじめとして多くの日本人は川が作った平野に都市を造って住んでいる。
平野を作るのは洪水だ。ときどき、とんでもない規模の洪水が起こり、川上の岩石や土を運んで海を埋め立て、土の上に土をのせる。
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「地層」というものがある。普通は地下にあって見ることが難しいが、その土地が隆起すると地層が目に見えることがありし、特に道路を造るときに山を削るとその山肌には決まって地層が見える。
地層は川の洪水、風で運ばれた土、そして火山の爆発などでできる。下に行くほど年代が古いが、それは木の年輪のように毎年、または何10年ぶりに洪水が起こった印(しるし)でもある。
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今度、タイで起こった洪水はタイ政府の発表では「50年に一度」程度の大洪水であるという。タイの首都バンコクは万国平野(チャオプラヤ平野)にあり、もともと海だったところがメナム川(メナム・チャオプラヤ、正しくはチャオプラヤ川)の洪水でできた平野にある。
(日本ではチャオプラヤ川を「メナム川」と読んでいたが、これは日本人が「川の名前は?」と聞くと、「メナム・チャオプラヤ」と言ったので、「メナム川」と思ったのだが、実は「メナム」というのは「川」という名前なので、メナム川というと「川川」ということになる。)
【上流の保水能力】
日本企業はタイに進出し、奥地の山林を伐採して木材を輸入し、平野に組み立て工場(アッセンブル工場や縫製工場)を作った。
なぜ、タイの森林を伐採したかというと、日本の森林を伐採すると環境運動家がうるさいからだ。
日本の環境運動家の多くは日本の森林さえ伐採しなければ、木材や紙の消費量には関心がない。木材や紙の消費量に変化がなく、日本の森林を伐採しないということは、外国の森林の伐採が増えていることは明らかだが、それには興味がない。
【工場建設とリスク管理】
なぜ、タイの平野に工場を造ったかというと、人件費が安いからだ。日本の若者が就職先がなくてニートになろうが、地方に工場ができなくても、そんなことは日本の経営者には無関係である。彼らは日本人である前に商人であり、「商人である前に、日本の子供たちに仕事を作らなければならない日本人の大人」ではない。
計算高い日本人経営者のことだ。タイの洪水の歴史、バンコク平野の成因、そして森林伐採によるチャオプラヤ川の上流の保水力が低下していることもそろばん勘定に入っている。だから、今回の洪水はあらかじめ、彼らの収益計算には織り込み済みである。
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でも、災害による補助金も欲しいので、ビックリして見せ、それをマスコミ報道部も追従している。テレビのコメントを聞くと、「日本企業は歴史も、平野も、地層も何も知らないバカ」であると言っているようなものだ。それをさらに「温暖化が原因」といって温暖化防止のお金を取ろうとしている乞食もいる。
タイの洪水の教訓は、日本人がより長期的に、より深く、「子供たちに働く喜びをもたらすこと、そして世界の環境を守ること」について考えなければならないことを示している。それにはテレビも新聞も報道部の考察が不足しているように感じられる。
(平成23年11月6日)