東京の世田谷で起きた事件は「汚染マップ」の大切さ、放射性物質の管理の大切さをしめしました。福島原発事故からすでに半年、奥の人が放射線に敏感になっているのですし、また放射線の高いところが散在することも事実です。
それに1時間3マイクロシーベルト程度の線量が観測されたのですから、私も含め多くの人が「ドキッ」としたのも当然でしょう。この事件の詳細はこれから少しずつ明らかになるでしょうけれど、私たちの教訓としては、このぐらいではビックリしないように現実を把握することと思います。
今回の「発見」が偶然だったことを考えると、まだ東京で高い放射線の地点があっても見つかっていない可能性もあるということで測定の精度を上げる必要があることを示しています。
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群馬大学の早川先生は2011年4月中旬から継続的に岩手から静岡にいたる地域で放射線量を測定、それを地図にして公表してこられました。私も早川先生のデータを見ながら解説を加えてきましたが、このご努力で多くの人が被曝から逃れることができました。
このグラフは9月11日に先生が発表された第4版ですが、実に詳細でわかりやすく、「国民栄誉賞」にも相当するもので、さらに学問の成果としてとても素晴らしいと思います。もし、このような地図が東京にもあったら、その時点で今回のことも発見され、また福島からの放射性物質の高いところも見つかっているでしょう。
それに対して文科省が9月18日に発表した土壌汚染のマップもそれなりに評価はできます。でも、やはり発表の時期が被曝した後で遅いこと、地図の仕上がりと精度が悪いこと、そして県境を意識して必要な場所が測定されていないことなど、早川先生のマップに比べると数段落ちることは一目でわかります。
文科省ばかりではなく、東京都や各自治体はさらに細かく線量を測定し、より安全に国民が生活するような基盤の整備が必要でしょう。
もう一つ、この2つのマップを比べて見て判ることは「学問の自由」の大切さです。もし、日本国憲法が学問の自由を保証していなければ早川先生は国の強い原発報道の規制に中で、マップを発表することができなかったでしょう。それは結果的に国民の被曝を増やしたと考えられます。
また、早川先生のマップでは、岩手県一関市、盛岡市や新潟県魚沼の汚染が示されていますが、政府の発表なら自治体の反撃などがあり、この段階では発表が難しく、また発表できなかったかも知れません(文科省の地図では含まれていません)。
時の政府がさまざまな理由で情報を隠匿するのは歴史的にも多いのです。アメリカの例ではイラクに大量破壊兵器があるという情報は必ずしも正確ではなかったのですが、その情報をテコにしてイラクに攻め込みました。アメリカは比較的報道の自由や学問の自由が尊重されていますが、それでも政府の強力な情報操作には敗れることがあるのです。
今回の原発事故で政府の情報操作が著しく、それにマスメディアが追従してしまったことは日本の報道にとっても大きな汚点になりましたが、学問の自由が保証されていたことで早川先生のようにご立派な学者の活動が国民を救ったのです。
「災いを転じて福となす」という言葉がありますが、福となすには災いを正面から受け止め、前向きに改善をして行くことです。
(平成23年10月12日)