放射線の被曝と健康について、福島原発事故が起こって、急激に変化したことがあります。それは特に次が重要で、一刻の猶予もできません。
1. これまで「放射線被曝は少なければ少ないほどよい」とされ、専門家のみならず日本の法律にも記載されていたことなのに、事故が起こったら、「少しぐらい被曝しても良い」、「被曝した方が健康になる」という人が大勢、登場したことです。これは人の健康に関係することですから、「意見が違っても良い」というほど簡単ではありません。至急、専門家の間で検討してください。できるだけ早く明確に声明を出してください。
2. その時に、「これまでなぜ、被曝量は少ない方が良い」としておきながら、急に変わったのかを多くの人が納得できる説明が必要です。今日からでも仮に「被曝は危険では無い」と発言する人は医師でも、専門家でも、自治体でも、かならず「なぜ、急に変わったのか」を示してからにするべきです(巻末に厚生労働省の電離放射線障害防止規則の第1条を示しておきました。放射線に従事する人に対しても、国は常に「少なければ少ないほど良い」というスタンスだったのです。
3. 事故の前まで、1年1ミリシーベルトの限界を日本の法律は厳密に守っていました。それを事故が起こったからといって(政府の一部(文科省)が変更したからといって)、なぜ急に20ミリとか50ミリを基準にして、学校運営、食品の暫定基準を決めたのは、その理由を早期に説明するべきです。
4. 1年1ミリシーベルトを日本の法律ではなく、ICRP(国際NPO)の単なる勧告だと繰り返し報道してきたマスコミは、緊急に「1年1ミリは日本の法律だった」と訂正するべきです。
5. 「暫定基準値を下回っているから安全」と言っている人は、1年1ミリ以上になるのに、なぜ「安全」なのかを明確にしなければなりません。基準を決める委員会の議事録を見ると、1年に何ミリシーベルトまで大丈夫かということを法律に基づかず、委員の個人的意見を述べていて、まったく違法な状態です。
6. もし、仮に1年1ミリを変更するなら、「理由、手続き」を明らかにしなければなりません。このブログで4月頃、放射線防護の専門家に「変更するなら大至急、見解を出してください」と要望しましたら、ある人から「意見がまとまらない」という連絡が入りました。もし専門家の間で意見がまとまらないなら、1年1ミリの法律以外のことをいうのは専門家、医師として不適切です。もし自説を述べるときでも「法律は1年1ミリだが」と必ず言わなければなりません。自分の判断をそのまま言ったり、自治体が独自に判断して被害者がでたら「傷害罪」ではないかと思います。
7. 緊急をようするので7月はじめから2つの放送局と2つの出版社にお願いし、武田との緊急対談を求めましたが、ほとんど全部の方に拒否されました。大切なことなので、是非「1年1ミリ以上でも大丈夫だ」と公言している方は対談に応じてください。
放射線と人体の関係が決定していないのに、原発を運転したのは実に大きな間違いでした。それは私も同罪で、そこの原発のもっとも大きな問題があるとは事故の前まで気がつかなかったのです。
考えてみれば、1年1ミリということで原発を設計し、汚染の基準を設けていたのですから、それが原発事故で簡単に崩れ、私のように法律を解説するだけで「武田は危険を煽っている」と言われるようでは、原発を運転するのは無理でしょう。
原発の事故では福島ばかりではなく柏崎刈羽の時もかなりの放射線が漏れていますし、チェルノブイリ、スリーマイル島なども同じです。だから、原発の推進には「その前提として、被曝は健康に良いのか悪いのか、どのぐらいまで大丈夫なのか」がわかっていることが当然の前提なのですから。
一般の人はこの現実をよく理解していただき、お子さんをお持ちの方などに「放射線を浴びても大丈夫だ」などといい加減なことを言わず(子供の健康のことですから、普通のこととは違います)、正しい態度で接してください。また専門家、医師の方は一刻も早く、1年1ミリなのか、それを変更するのか、被曝は少ない方が良いという従来の考えを捨てるのか、その理由はなにかを明確にし、国際的にも合意を得て、国民に説明してください。
放射線被曝は日本だけで決めることができません。この国際化時代ですから、人の行き来はどうしてもありますし、日本人と外人が被曝に関する感度が違うわけでもないのです。「日本人は我慢してくれるが、外人には通用しない」というのはダメです。東京の広尾の「外人向けスーパ-」がすべての商品にベクレル表示をしていることは、本当に日本の流通業の恥です。日本人ならまずは日本の子供を大切にしてください。
(平成23年9月11日)