少女は語らない。その澄んだ目でお母さんの一挙手一投足を見つめている。からわらでつぶらな瞳の少年が通り過ぎる電車に夢中になる。

 

おじさんは怒鳴る! 何で汚染された野菜を出していけないのか! こんなに苦労して作ったんだ! 我々の生活はどうでもよいのか!

 

少女は語らない。ただ黙々と出された給食を食べる。たとえ汚染された野菜でも、彼女は大人を信じて放射性物質を体の中に入れる。

 

怒鳴ったおじさんは、知事と教育委員会に助けられ、汚染野菜を出荷し、給食の食材として販売し、生計を立てた。政府と東電は知らぬ顔をし、マスコミはびびった。

 

語らなかった少女はやがて病の床につく。誰が語らなかった少女を助けることができたのだろうか?

 

(平成2395日)