20117月末、日本の食品安全委員会は、「生涯被曝量の上限を100ミリシーベルト」という考え方を出しました。

 

日本人の平均寿命は80歳程度ですから、正確に割ると1年に1.25ミリシーベルトになりますが、こういったものは、「長寿の人」を視野に入れておかなければならないので、100歳として、11ミリになります。

 

おおよそ、これまでの国際的な認識を再確認した形です。ちなみに、日本のお医者さんは高い被曝までOKという人が多く、ドイツ(規制値1年0.3ミリ)では慎重派が多いという特徴も頭に入れておく必要があるでしょう。

 

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私はこの食品安全委員会の発表を評価しますが、若干の問題点があります。良い点も悪い点も含めて、考えてみましょう。

 

1) この100ミリシーベルトは、外部被曝も内部被曝も含んでいるので、本来なら、同じ内閣府の原子力安全委員会と一緒に協議するべきだったと思います。

 

2) 食品は「準強制的摂取」(もしどうしても食べたくなければ、食べないこともできないわけではない)というものですが、放射線のうち、外部被曝は「その土地に住んでいたら、強制的に被曝する」というものなので、基準も少し変わる必要がある。

 

3) 従来の食品安全の基準は「このぐらいなら大丈夫」ではなく、「いくらなんでもこのぐらいなら大丈夫」(動物実験の100分の1。体重キログラムあたり)としている。

 

4) 放射線被曝の11ミリも、ほぼ同じ基準で考えられていたが、現在は「放射線の専門家」と言われる人が「素人的」な発想で議論している。

 

 今から数10年前、食品添加物や農薬が心配された頃、「このぐらいなら大丈夫」という議論をして、不安をあおったので、「いくらなんでもこれぐらいなら大丈夫」という考え方に切り替えて、多くの人の信頼を得ました。

 

 たとえば、動物実験で100mgがギリギリということがわかった場合、まず、動物間の差などがあるので、10分の1にして、さらに人間の個体差や大人と子供などがあるので、さらに10分の1にして1mgと決めるというような感じです。

 

もちろん、それ以外にも人間のデータや、年齢によって細かく研究して補強していきます。

 

 実は、放射線被曝も原発事故までは同じ考えで、人間ではおよそ1年間5ミリシーベルト(労災適応限度)から20ミリシーベルト(職業被曝限度)程度が危険領域なので、一般公衆(赤ちゃんを含む)はその10分の1で、11ミリシーベルトというのは、このようなことからみても妥当でしょう。

 

 いずれにしても、「一歩前進」という感じです。今の食品の暫定基準値が、「内部被曝だけ」で「120ミリシーベルト」をもとにしているのからみると、とても良いことと思います。

 

 でも、さらに進んで、「なぜ11ミリなのか」というのを論理的にも社会が合意していく必要があります。

 

(平成23727日 午前7時 執筆)