先回に示した「メルトダウンさせる方法」は原発事故を最小限にとどめる一つの方法に過ぎない。
問題は、
1) 「止める」ことができない(制御棒が入らない)ことが出来ない場合、
2) 「冷やす」ことができない(冷却系が壊れた)場合、
それぞれどのようなことをするのか、どうなるのか、それに対して住民はどのように防御するのか? どれも「明示」されていなかったということがもっとも大切なように思う.
つまり、船に乗るときに、船が沈没する可能性があること、その時に何をしなければならないかということについて、単に船長ばかりではなく、乗船している全ての人の「コンセンサス」がなければ、瞬時に判断して行動することが難しいからである.
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福島原発では、まずは
「何がどのように起こるか?」
が判っていなかったこと、
「その時にどうするのか?」
もまったく検討がされておらず、さらに住民になにも知らされず、さらに「原発から遠くに逃げろ」というような明らかなウソを教えられるという状態だった。
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それはすでに過去のことだが、実は未来でもある。
今、日本で稼働している原発について、
「何が起こるのか?」
についてはこれほどの事故が目の前で起こっても、相変わらず、
「原発は安全です」
と電力も知事も言っている.
「その時、どうすれば良いか?」
を問うと、
「そんなことは想定していない」
という答えが返ってくる。つまり原発は「救命ボートを積んでいない客船」なのである。
そして、「救命ボートはどのようなものが備えられているのか?」という質問を電力にすると、うさんくさい目で見られたり、排斥されたりするという異常な社会なのだ。
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人工放射線による被曝で、1億人に年間5000人がガンにかかる。この損害に対するメリットは「原発からの電気を買うことができる」ということで相殺されている。
日本人は原発がなければ1年1ミリも被曝しないのだが、原発があることだけで1年1ミリの被曝をする。これについては不問に付すということであって、1年1ミリがまったく安全だということではない。
私は電力会社と話していると、もしかすると電力会社は自分たちが製造し、それを販売している電気に対して、1年に5000人の人がガンになるという代償を払っていることを知らないのではないかと思うことがある。
つまり、現在の日本の電力会社は「救命ボートを用意しない船会社」なのである。原発は動いているのだから、電力会社は一刻も早く、「何が起こるのか?」と「救命ボートはどこにあり、どのように乗るのか」を示す誠意を持って欲しい。
(平成23年6月24日 午後3時 執筆)