先回、通報が早かったら多くの人が被曝を減らすことが出来たのにということを書きました。
でも、実際には運転主任も発電所長も公設消防には連絡せず、おそらくは本社に連絡をとり、本社もまた「自分たちは日本人だ」ということには思い至らず、
「自分たちは東電社員だ。日本人に迷惑をかけてもかまわないが、東電を痛めることだけはできない」
と判断したのでしょう。
民主主義と言い、「民主党」という名前の政党が政権を取っているのですが、まだまだ日本は国民が主人ではないようです。
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ところで、3月11日夕刻、原子炉を循環することができないと判ったとき、発電所幹部はどのように考えたでしょうか?
原子炉というのは厚さ約15センチほどの頑丈な鉄の塊で覆われ、その回りを「格納容器」というこれも頑丈な容器に囲まれていました。
だから、水が漏れたりしても大丈夫なのですが、唯一、「高圧ガス」が漏れるとどうしようもなかったのです。
普通なら、ガスのないところから高圧ガスが発生することはないのですが、液体や固体が分解してガスがでると高圧になることがあります。
良く知っているように、水は分子量が18ですから、18グラム(約18cc)で1モルになります。コップの10分の1ほどの量の水ですが、これが分解して「水素ガス」がでますと、温度が低くても22.4リットルにもなります.
22400÷18=約1200
つまり、水が分解して水素を出すと、その体積は1200倍にもなるということを意味しています.
ただ、ガスは圧力が上がると体積も小さくなりますので、圧力が12倍になると、体積も100倍ぐらいになります。
いずれにしても、水が分解して水素になると急激に圧力があがり、体積も増えるので、原子炉内には閉じ込めておくことは出来ません。
原子炉内で発生した水素が放射性物質で汚れていなかったら、それを屋根の上に放出してしまえば良いのですが、それとともに放射性物質を出すので、おいそれと出すことも出来ません。
普通は水素が発生したら、それを逃がす装置もあるのですから、何しろ地震が来たので、どれもこれも壊れているのです.
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装置の安全性を考えるというのは実に難しいもので、素人が少し考えたぐらいでは安全性を判断することは出来ません。
たとえば、原子炉の圧力が上がってくると、それを逃がす必要がありますが、放射性物質を処理しなければ外へは出せません。
また、電源が喪失したときに「ベント」(普通は単にガスなどを外に出す出口のようなものを指しますが、放射性物質が含まれているので、単純ではありませんが)を自動的に閉めた方が良いのか、それとも手動か、手動と言っても放射線が強いので、実際には人間が近づけないか・・・など多くの場合があります.
今回の場合はベントは自動的に「閉」だったようですが、これもなかなか難しい面があります。
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ここで書きたかったのは次のことです。
電源が喪失して冷却が出来なくなり、水素が発生しだしたとき、このような原発の構造を知っている人は、瞬時になにができるのか、何が起こるのかが判るのですが、他人には判断出来ないということです。
ここでいう原発の専門家も含んでいます.政治家、評論家、一般の人はなおさら判りません。
専門家も判らないのは、ある一つのバルブがどこにあるか、それが手動なのか自動なのかなどによって、局面はまったく変わるからです.
結果から見ると、電源喪失から水素爆発まで一直線だったのですが、これが本当にどういう内容を持っていたのか、今後の研究で明らかになっていくでしょう.
私たちの知るべきことは、
「今の原発は安全性が不十分だ」
という事実をそのまま受け止めることと思います.
(平成23年6月5日 午前8時 執筆)