放射線医療のお医者さんが、「1年に100ミリシーベルトまで大丈夫だ」と言っていることについては、このブログでも何回も触れました。

なぜ、長い間、検討した結果、「11ミリシーベルトが限界」と決まっているものを突然、100倍まで大丈夫とお医者さんがいうにはそれなりの理由があると考え、さらに少し調べてみました。

特に、多くの人の被曝の危険がある、福島県のアドバイザーになられた先生のお話を何回かネットを通じてお聞きしてみると、どうも次のようなことではないかと。感じましたのでブログに書いてみることにしました。

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1)   

何回も同じお話を聞いてみると、100ミリシーベルトまで安全と言っておられるわけではなく、緊急時だから仕方がないと言っておられるように聞こえる、

2)   

福島医科大学の講演では、「福島医科大が今後、放射線治療について世界のトップレベルになるだろう」という趣旨のご発言をしていることから、かなりのがん患者が発生することを予想しておられる、

3)   

医師というのは、政治に口を出さず目の前の患者を治療するというのに全力を挙げるというのが主たる任務であること、

3つのように思えます。

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このことについてわたくしはよく

「野戦病院に派遣された国立病院の医師」

という例で説明をすることがあります。

国と国が戦争をして、国立病院の医師が前線の野戦病院に派遣されたとします。その医師は次々と運びこまれてくる負傷兵を全力を挙げて治療をします。

それは本当に大変なことですので、そこで医師は「わたくしは寝ずに治療している。こんなに治療しなければならないんだったら、戦争をやめたらどうか」と発言しそうなものですが、絶対にそういうことは言いません。

急にウイルスが流行って病人が出たとか、天変地異で多くの人がケガをしたというのなら、それを治療するのは医師の任務です。

しかし、戦争ですから人間と人間が戦って、いわば「わざと負傷兵を出している」わけですから。それをやめてくれと言いたくなるような気もします。

医師という職業は患者さんが戦争で負傷しても、ウイルスで熱を出していても、あるいは酒を飲みすぎて二日酔いをしても、その原因についてはあまり強く言うことを控えるという性質があります。

つまりは、医師は患者を前にして淡々と治療するというところがあります。

これはわたくしの職業でも同じで、学生の中には一生懸命勉強する学生とほとんど勉強しない学生がいますが、勉強しないからと言って教えないということはしません。

時には「君を勉強しなさい」ということがあっても、そのことと、「教える」というわたくしの任務とは一応切り離されているからです。

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今回、原発が事故を起こして福島の人が被爆をしました。これについて政治的に見る、科学的に考える時と、医療として考える時とは少し違うような気がいたします。

わたくしは科学者であり同時にエンジニアでもありますから、少しでも福島の人の被曝を減らせないかという方向に考えが行きます。

従って、小学校の庭の土を除いた方がいいとか、早く福島原発の近くの場所を除染すると被曝が減るというように考えます。

起こったことは元に戻せませんが、できるだけ放射線の量を減らすことによって、被曝を減らすという方向に頭が働きます。

一方、お医者さんの中には、野戦病院で治療をされているお医者さんのように、戦争については仕方がないけれど、目の前いる負傷兵は治療するという考えをする人もいるでしょう。

そのように考えると、福島の被曝を防ぐということではなく、やがて将来発生してくる患者さんに対してどのような備えをしておくのかということに考えの中心が行く場合があります。

福島県のアドバイザーのお医者さんが、「国が決めたのだから仕方ないじゃないか」と繰り返されていますが、このことは、医師としてはやや理解できる気もいたします。

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コミュニケーションとは難しいものです。

誰でも、いままで生きてきた人生や専門によっていろいろな言葉の使い方をしますし、また受け取り方も違います。

だから、この医者さんの発言を「100ミリまで大丈夫だ」とか、「子供に20ミリまで大丈夫だ」と本当に考えておられると受け取るのも、ある種の誤解かもしれません。

だから、やはり今まで長い間の検討で決めてきた1ミリを守ってできるだけ被曝を少なくするという努力をするべきなのでしょう。

お医者さんの言われている真なる意味を理解していながら、100ミリとか20ミリという言葉じりをとって政治や自治体の運営、学校の施策に利用し、子供たちの被曝を増やしているという人たちの方は問題かと思います。

またを医者さんの方も発言に注意する必要があると思います。

日本の医療被曝が先進国の中で飛びぬけて多いことは、再々指摘されています。ある論文によると、ヨーロッパ等の放射線医療に対して日本の放射線医療でがんになる人(治療するとガンになる場合)は数倍になるという報告もあります。

これが、本当に国民の健康を考えて日本のお医者さんが放射線医療をされているのならいいのですが、人間のやることですから怪しい面もあります。

たとえば、放射線の機器を高い値段で売っている業者の人との癒着があるとか、あるいは放射線医療の分野が新しい分野なのでそこで名を上げたいという大学病院の人もおられるでしょう。

そのような疑いを持たないためにも、放射線医療の専門家や放射線防護の専門家は、「11ミリの基準の根拠」をしっかり話し、今までのように「放射線の被曝は少ない方が良い」ことをしっかりとご発言されることが重要と思います。

(平成23514日 午後1時 執筆)