「枝野幸男官房長官は6日午前の記者会見で、福島第1原発の放射能漏れ事故を受け、年間1ミリ(シーベルト、以下省略)としている住民の被ばく限度量について、引き上げを検討していることを明らかにした。」

というニュースが流れ、その理由として記者は、

「屋内退避指示が出ている第1原発から20から30キロ圏の外側でも、大気中の放射線量の積算値が10ミリを超えた地域がある。このため、原発事故の長期化を前提に、健康に影響が及ばない範囲で被ばく限度の基準を緩める必要があると判断した。」

と解説しました。 

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この政府の変化について、私たち被曝する身になると、次のことを知っておかなければなりませ。(記者が書いているようなこと・・「健康に影響が及ばない範囲で基準をゆるめる」・・・ことはできないのは当然だから)

1) 福島原発の事故が起こったから(という理由で)、私たちの放射線に対する防御の能力が上がったのか(事故があったからという理由で、放射線が20倍も安全になったのか)?

2) 規制値をゆるめる理由となるICRP(国際放射線防護委員会)の勧告にはどのように記載されているのか? ICRPの真なる意図はなにか?

3) かつて「100ミリまで健康に影響がない」と言い続けていた日本政府は、なぜ、今になって「年間1ミリ」が住民の被曝限度と言い出したのか?

その上で、私たちはどのように放射線から防御しなければならないかを考えたいと思います.

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【1の答え:人間は急に放射線に強くなるのか?】

事故が起こったから人間が放射線に強くなるということはありません。やはり「安全な放射線」は1年間1ミリで変わらないのです。つまり1ミリから20ミリになると、病気の危険性は20倍に上がります。

具体的には、1年間に100ミリの被曝を受けた場合、1000人に5人、つまり1万人に50人、1億人で50万人が「過剰発がん」になります(ここでは福島市の顧問になられた長崎大学の先生の数値を使います.たの数字もほぼ同様です)。

放射線によるガンの発生は「確率的」、つまり、被曝量に比例しているとされていますので、1年間に1ミリというのは、自然放射線に加えて、人工的な放射線が増えることで1億人(日本人全体)に対して100ミリの場合の100分の1、つまり5000人が(放射線で)ガンになると予想されています。

そして、20ミリはその20倍ですから10万人になります。つまり、20ミリあびると、交通事故の10倍ぐらいの危険があることを意味しています.

なぜ、そんな危険な基準を設けるのかというと、ICRPは「事故の時には総合的に考えて、仕方のない範囲で我慢する」ということだからです。たとえば事故処理に当たる作業の人も限度が上がるが、その場合は「志願者」だけに限るなどのことをしていて、非常時を強く意識しています。

その意味で、繰り返しますが、記者が言っているような「健康に影響がない範囲」などというのは被曝ではありません。

【2の答え:ICRPの勧告の意味】

非常時のICRPの考え方は、まず、第一に「全体のために少し我慢してくれ」という思想に基づいていること、

第二に「短期間に限る」ということで、たとえば屋内待避(2日間)、一時的な避難(1週間)、食糧制限(10ミリ)などのように「臨時措置」であること(防護措置のあるもの)、

しかし、さらに国が「総合的な施策」を打つことができれば、状況に応じて20ミリまでOKというものです。無条件で、1ミリが20ミリになるわけではありません。

簡単に言うと「短期的で、国が十分なケアーをする場合に限り」ということです。

【重要な前提】

ICRPが使っている「放射線量」は、(外部被曝+内部被曝)の合計で、それに対して日本政府のものは(発表がないので定かには判らないが)外部被曝だけと思われます.

その点では、今、1時間に1マイクロと発表されているところは、2倍して2マイクロ(呼吸によって体内に入る量)、それに食品や水からの1マイクロ(水道が特に汚れていない地域)を加えて、「3倍」にして3マイクロで計算してください(何も警戒できない児童などは4倍)。

(例)

1×3×365(日)×24(時間)=26ミリ

私たちは、家族の健康には、1年20ミリは臨時のこととして、これまで通り、1年1ミリを基準に考えることです。

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このように当然のことですが、事故が起こったから突然、人間が放射線に強くなる訳ではないので、「1年1ミリなら安全」というのは変わりません。

また、ICRPの勧告を「よくよく読んで」、「なんとか日本人により多く被曝させたい」という意図を持って重箱の隅をつつく(法の網の目をくぐる)ようにすれば、若干の余裕もあります。

本来、国民を守るためにあるお役人や専門家は、もしかすると「放射線の害を少なく見せたい」という欲求から、網の目をくぐるような言い方をしてくる可能性があります。

でも、私たちは「より多く被曝したい」のではなく「より安全に」ということで、ICRPも「事故の時にはやむをえず20ミリまでよいが、できれば1ミリ」という考えは変わってはいません。

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ところで、日本政府は最初「100ミリまで健康に影響がない」と言って、それにのった専門家は、たとえば私のことを「1年に1ミリなどと言って、危険を煽る学者がいる」などと言ってきましたが、今回、見通しがついたら「1ミリが限度」と公式に認めました。

それは前進です.

しかし、放射線被曝は「最初が肝心」なので、このような変化は「国民の為を考えているのではなく、政府の保身」から出発しているのでしょう。最初に1ミリといって避難させるべきなのです。

また、国民を守る最後の砦である、原子力安全委員会も、地方自治体も、20ミリになって「仕事は楽になる。国民は被曝が増える」という二つのことのうち、「仕事が楽になるなら歓迎だ」という態度にでると予想されますので、注意を要します.

(平成2347日 午前9時 執筆 4月8日修正)