ところで、メタボという制度を「正確」に表現すると、
「日本国民はメタボ検診を受ける義務がある」
というのは不正確な表現で、正しくは
「国民一人ひとりには義務はないが、その人が所属する健康保険組合に罰則が科せられる」
という村八分制度があるという説明をした。この辺が最近の官僚が作る制度の面白いところだ。
リサイクルというのがあり、「一回で使い捨てるのはいかにももったいないから分別してリサイクルしよう」と言っておきながら、法律では「焼却してもリサイクルに入れる」と決める。
そうなると、
「焼却をリサイクルに入れてあたかもリサイクル率が高いように装って税金を取るのは倫理にもとる」
というと、
「法律道理にやっているのだから倫理は問題ない」
とくる。話をややこしくして、矛盾を消す常套手段だ。
制度を厳密に言えば国民の義務ではない。だから文句を言うなということだが、実際にはメタボ検診を受けないとひどい目にあうという仕組みだ。
もう一つ、ややこしい不正確な表現を使っている。
それは私が
「男性で85㌢、女性で90㌢ならメタボ」
と書いたら、
「男性で85㌢以上、女性で90㌢以上の腹囲であり、かつ中性脂肪,コレステロール、血圧の3つのうち、1つ以上、基準を超えたらメタボ」
というのが見かけ上は正しいと反論される。
メタボの制度をよく知らない人が聴いたら、
「そうか、腹囲だけじゃないのか、それならまともな制度じゃないか。中性脂肪,コレステロール,血圧のどれかが「異常」なら保健指導を受けても良いんじゃない」
と言うだろう。
誰でもそう思う。それを狙うのが「優秀な官僚」なのである。でも、筆者がそれが判っていて「男性85、女性90」と書いたのは訳がある。
そのわけが、メタボの制度を理解するポイントなのだ。
男性で腹囲が85㌢以上ということになると、看護婦さんが「こちらにいらっしゃい」と言って血圧を測る。そうすると100人が100人、「血圧が異常ですね」と言われて「メタボ」になるのだ!!
その理由・・・・・・
実は、メタボ制度が検討されていた西暦2000年、日本人(男性)の年齢別の平均血圧は、40歳代が135、50歳代が148、60歳代が160、そして70歳代前半が167だったのだ。
つまり、メタボの検診を受けなければならない人は40歳以上だから、ほぼ全員が「血圧異常」になってしまうという仕組みを最初から狙っていた。血圧降下剤のメーカーが暗躍したと言われるのも納得できる。
日本の国民で40歳以上の人が「平均的血圧」であっても「異常」ということになると、今度は国語審議会にかけなければならない。
「異常」というのは「常と異なる」と言うことであり、「平均」というのは「普通」ということだから、異常と普通は正反対である。それを「同じだ」と定義しているのがメタボなのである。
ところで、高血圧については後で話をするけれど、日本で血圧の異常というと、日本高血圧学会が出している決め方が一般的で、「高血圧」と言われるのは、少し前まで上が140以上と決められていた。
でも、これまでは高血圧と診断されても、他の合併症などがなければリスクは少ないとして個別に相談するようにしているし、また国際的には70歳代の高齢者については160以上で治療を開始するようになっている。
また、さらに「白衣効果」という素晴らしい用語があって、病院に行って目の前に白衣を着た看護婦さん(医師でも良いが)が血圧を測ってくれると、ドキドキして血圧が「5」も上がるというのが定説だ。
だから、メタボの検診を受けると「40歳以上の人はすべて高血圧」というトリックがわかる。
経営状態の悪い病院や大手の製薬会社は笑いが止まらない。これまで「体の調子の悪い人が病人」だったのに、「正常な人を病人とする」という制度ができたからだ。
(平成23年1月30日 執筆)