先回、驚くべきことに日本はこれほど情報が氾濫し、文盲率もゼロに近く、全員が高等学校以上の教育を受けているにも拘わらず、自分の健康すら「強制されなければ守れない」と情けない国民・・厚生労働省と一部の医師が錯覚しているだけだが・・に成り下がり、メタボ検診が始まった。
メタボ検診も上手く「異常というお墨付きを受ける事ができたら」、「看護婦さんから電話やメールをいただく身分になる」ということを先回書いた.
でも、せっかく看護婦さんからメールをもらいたいと思って、一所懸命になって太り、腹回りを85センチ以上にした男性も、その後の健康診断で健康とされるとせっかくの努力も水の泡になる.
ところで、このメタボの問題はもう一つの「泣き笑い」がある。
実は、「日本国民はメタボの特定検診診査」を受けなければならない、それは義務だ、と見えるが実はこれは正確ではない。
個人がメタボの診査を受けなくても、メタボと判定されてせっかく看護婦さんにご指導いただけるのに、それを断っても監獄に入れられるわけでもない。
それでも、強制なのだ。
それは、「国は国民健康保険を運営する組合などに対してメタボ検診を実施するように義務づけている」からで、もし、市町村や健康保険組合が「メタボ検診を実施しない」か、あるいは「実施しても指導が甘く、一定期間何に国が定めた受診率や指導の実施率を下回った」場合、国から財政面の罰金、罰則が課せられるという制度になっている。
つまり、「村八分」の公認制度ということだ。
かつて個人より団体が重んじられていた江戸時代,一人一人の行状を咎めるのは面倒だから、村の長(おさ)に村人の締め付けをさせる。
そして、「もし、おまえの村に不届きものがでたら,年貢を上げるぞ。殺人などあったらおまえの首をはねる」と言っておけば良かった。そうすれば警察もいらないし、治安は保てる。
「村八分」の制度も個人を抑圧する社会ではなかなか良い制度で、村の長(おさ)が厳しく取り締まってくれる。
厚生労働省の中に封建制度の信奉者がいたのだろう。「もし、特定保健指導から5年後に、次の義務が達成されていなかったら、その保険組合には後期高齢者医療制度の補助金が10%減額される」という。
保険組合に課せられた義務とは、メタボ検診の受診率が65%以上,メタボ該当者がでたら特定保健指導をする率が45%以上、そしてメタボ該当者を5年で10%減らすこと,というのだ。
なかなか、興味ある義務だ。
メタボ検診の受診率や指導の率を上げなさいというのは役人の指導としては実にわかりやすい。でも、メタボの人を5年で10%減らせとうのはなかなかすごい。
なにしろ個人の生活や体質で太ってしまうのだから、それを取り締まるというのは容易ではない。国全体でやろうとすると幾らでも抜け道を考えるだろうから、健康保険組合でやらせれば、強制的にやれるだろうという発想だ。
まあ、健康保険組合としては補助金を減らされたら堪らないから、メジャーを当てるときに「すこしお腹をへこませてください」と言うだろう。制度ができても人の心が分からなければ続かない。
無理が通れば道理引っ込むのことわざがあるから、間違い無い。その意味では誤魔化しや犯罪を誘発する制度とも言えそうである。
ところで、この罰則の中で面白いのは、40歳から75歳の人が「悪さ」をして、看護婦さんのご命令通りに痩せなければ、75歳以上の人にペナルティーをかけるという方式だ。
いや、この制度を指導した医師の顔をつい思い出してしまう。
社会的にペナルティーをかける場合、悪いことをした人に罰を加えるのが普通で、年下の人が悪さをしたから、年寄りが補助金をもらえないという制度も奇想天外だ。
特に後期高齢者医療制度というのは75歳以上の人が、それまで入っていた健康保険などから強制的に脱退されて、市町村の管理に入るのだから、普通の健康保険組合にはペナルティーが無いように見える。
実に、奇妙奇天烈な制度なのである。
メタボの制度は、「村八分」、「子どもが犯罪を犯せば、親が罰を受ける」という祖先帰りの罰則システムだ。これが具体的に実行され、なにかのもめ事があって裁判にでもなったら、それこそ見ものだろう。
村八分法,罰遡り法を現代の正義感を失った裁判官がどのように判断するか興味津々である。
(平成23年1月20日 執筆)