お国の制度が始まってから2年、もうすでにかすんできてはいるけれど、「メタボリック・シンドローム」というのが2008年4月に突如として日本社会に登場してきた。

アメリカ人やイギリス人はあまり日常では使わない英語だ。

 どうも、男性では腹回り(腹囲)が85㌢以上、女性では90㌢以上の人を言うらしい。日本人の健康と寿命に大きく影響するもので、そんなに大切な「測定値」なのに、巻き尺があれば誰でも直ちに計ることができて、それで自分の健康状態が判るという。

おまけに、自分の背の高さも年齢も関係なく,とにかく男性なら85㌢、女性で90㌢というのだけを覚えればよいという簡単なものである。

身の丈2メートルの男性も、小柄な人も同じ寸法で「健康かどうか」が分かるというのだ。

 しかも、日本国家の将来を左右するほど大切なことなので、日本国民は全て測定しなければならない。本来は自分で巻き尺で測れば良いのだが、それでは「ウソ」をつく人もいるというので、厚生労働省の指導で行われる「特定健康診査」という「診査」を受けなければならない。

 本人の健康でも本人がウソをつくから、国がはかり方を指定するというのはいかにも厚生労働省らしくて面白い。国民は下僕なのだな・・・と思ってしまう。

 日本国憲法には書かれていないが、メタボも誰かが決めた国民の義務らしく、年齢も細かく決められている。

 まずは基礎知識。

 第一に、年齢が40歳以上74歳以下が診査の対象となる。75歳以上はメタボリック・シンドロームとまったく同日に始まった「後期高齢者医療制度」でできるだけ早く死んでくれということになったので、診査の対象外になっている。

 そうなるとちょうど40歳とか74歳の人はいつから診査を受けないといけないのか判らないので、厚生労働省は「特定健康診査・特定保健指導に関するQA集」を2008年5月20日に出して、次のように定めている。

 3月31日が誕生日の人は、39歳の時の4月1日から診査の対象となる。一方では、同じ誕生日で74歳の人は翌年の3月31日に75歳になるのだが、こちらは診査の対象となると説明している。

 このように細かいことまで決め、「全国民はすべからく診査を受ける」というシステムが誕生した。

 国民のお腹を巻き尺で測るのだから、今までの常識としては「そんなもの、自分で計れば良いじゃないか」と思うし、病気ならともかく、ちょっと太っているというぐらいで人前でお腹を出して巻き尺で測ってもらいに行くというのもマンガ的なような感じがする。

「俺は武士だ。腹なんて出せるか!」などと言ったらたちまち「御用」なのである。 

 このふざけた、マンガのような制度は大まじめなのである。

 もし、お腹の周りが男性で90㌢を超えると、次に2,3の健康診断を受け、めでたく「病気予備軍」ということになると、「特定保健指導」というのが待ち構えている。

 これは「初回面接」と「実績評価」というのがあり、まず診査にひっかかると、お腹の出方によって、あまり出ていない人は「動機付け支援」というグループに、そしてかなりお腹が出ていると「積極的支援」というグループに編入される。

 初会面接で看護婦さんなどにアドバイスを頂き、それに基づいて「行動目標」というのを作る。もし、「積極的支援」のグループに入れられると、サービスはさらに濃厚になり、看護婦さんに数回の面接,電話、メール、ファックス、手紙などをだし、少なくも3ヶ月以上は交際しなければならない。

 最初はメタボをいやがっていた中年の男性もここまで来るとなぜか乗り気になる.えっ!看護婦っ!電話?メール!となる。

 そして、独身の中年男にも女性から電話やメールが来るようになった夢のような6ヶ月たつと、「実績評価」の面接などがあり、「あなた、良くやったわね」と褒められるか、もし交際を続けたい場合は、お腹が出たままにすれば「ダメね、また6ヶ月はやりなさい」と指導を受ける。

 ・・・・・・できれば、続けたい・・・

 こんなに国民一人一人の健康に気を配ってくれるありがたい政府は、もちろん世界で一つもない。しかも、診査に引っかかると看護婦さんがついて指導してくれる。一人暮らしで生活が乱れがちな中年男性にはうってつけの制度だ。

(平成23117日 執筆)