若い頃、ある化学会社の開発部長をしていた。そのころ、電子機器が大きく伸びているときで、それに合わせた材料が次から次へと求められた時期だった。

販売の前線にいる営業部隊は、お客さんから「こんな材料が欲しい」と言われて、それをすぐ私の開発部の担当課長に連絡する。

そうすると、担当課長は「そんなものはできませんよ」とそっけなく返事をしている。私はそれを聞いていて「どうしたら「技術系課長が相手の身になって考える」ことができるかな」と思っていた。

新しい材料が欲しいと言うお客さんは材料の専門家ではない。自分が希望しているのができるかどうかが分かって言っているのではない、できるかどうかは分からないけれど「欲しい」と言っているだけだ。

一方、素っ気ない課長が電話口で言っているのは、「おまえは材料の専門でもないのに、そんなのができるはずが無いじゃないか」と言っている

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課長は「科学」というものを知らないからこのように答える

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それから30年。ほとんどの電子機器の材料は当時「欲しい」と希望していたお客さんの通りになっている

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材料の専門家は「今、自分が正しいと考えていることは間違っている」という科学の原理原則を知らなかったのだ。

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大東亜戦争で日本はアメリカの負け(正しく言えばアメリカ、イギリスなどのいわゆる連合国に負け)、マッカーサーが占領軍司令官として日本に赴任してきた。

マッカーサーのもっとも大切な任務は「破壊された日本を復興させる」ことではなく、それとは正反対の「破壊された日本を二度と立ち上がらせないように、軍事は破壊し、精神は堕落させる」ということである。

「相手の立場に立つ」ということはそういうことだ。

マッカーサーがやったことの一つの「食塩が高血圧を招く」というアメリカ医師団の勧告だが、この勧告が「日本人をふぬけにする」という作戦の一部で行われたという説はあながち否定しない方が良い。

人間は希望や目的を持っている.そしてその希望や目的は「自分のため」、「任務のため」であり、決して「自分や自分の任務を軽視して、相手のために」という言動は尊敬されない。

マッカーサーは日本人の精神を政治、教育、精神、体などの点で、徹底的に破壊した。でもそれは彼の任務であって、彼を非難するなどおかしいとある識者も言っていた.

尊敬するある軍人が「占領軍司令官のもっとも重要な任務は二度と再び、敵国が自国に戦争を仕掛けないように徹底的に破壊することだ。」とおっしゃっていた。軍人が任務に忠実であるのは間違っていない。私たちが相手の身になってものを考えていないだけのことだ。

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尖閣諸島事件で、「中国はもともと尖閣諸島が日本の領土と認めていたのに、海底に石油や天然ガスがあると分かって領有権を主張し始めた.許せない!」という意見が多かったけれど、「役に立たないところの領有権」を主張する方が私には奇妙に思える。

また中国人が本当にどういう人たちかは不明だが、多くの中国専門家は「中国人は損得しか考えない」と言っている

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だから、まずは損得を考える中国人が、得になると分かったら尖閣諸島の領有権を主張するのは当たり前だ

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そうなると、「そんなことを知っているのに、なぜ今まで俺たちは尖閣諸島を放りだしていたのか?」とか、「石油がないと言っているのだから、なぜ尖閣の資源を確認しないのか?」という話になり、かなり議論は前進することになる。

これも「中国」という「相手」の立場に立つということで、さらに中国の主席が交代期にあるとか、中国が海洋に関心を寄せてきたという政治的な背景も考えると納得できることが多い

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それに加えて、自民党末期政権や民主党政権では到底、日本国自体がやるべき事をしていないので、当然といえば当然のできごとだった。

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会社の技術職、占領軍司令官、領土問題・・・ことの内容はまったく違うけれど、相手の立場に立つということがいかに難しいかを骨身に感じる今日この頃だ。

(平成2317日 執筆)