ホーチミン市の郊外に工業団地が散在している。どの工業団地も次々と工場が建設され、第一期から第二期に進もうとしている.

日本の工業団地は閑古鳥が無くところが多いことと比べるとまったく違う.成熟した社会と、これから発展を迎えようとするところとの差だろう.

ベトナムの人口は約8000万人、そして20代の働き手は2000万人もいる。だから、ある日系企業では2000人の従業員の平均年齢はわずか24歳という驚くべき若さである.

でも、悩みはある。それは「定着率」が悪いことだ。原因は二つ.一つは「少しでも賃金の良いところへ移る」という社会慣習、二つ目は「都会で働いても、仕事が厳しいわりにはお金が残らない」という現実である.

・・・・・・・・・・・・

ホーチミン市から南に来るまで1時間ほど行くと、世界でも有数の河川、メコン川のデルタ地帯を見ることができる。

高速道路の両側に拡がる田園地帯は、驚くほど豊かで人々は満足げに働いている.下の写真は車の窓から撮影したのだが、おおよそこの地域の平均的な田園風景を撮影することができた。

Photo

この写真よりもっと豪華な住宅も多い。

それもそうかも知れない.なんと言っても、この地帯の気候は温暖で冬でも30℃を超える.だから基本的には三毛作も容易だ。

乾期でも湿地帯が多いこの地方は、雨期になると決まった時期にメコンが氾濫して、豊かな栄養を上流から運び、病原菌を退治してくれる.

それに加えて、台風やハリケーンと言った暴風がほとんど無いので収穫は安定しているし、地震もない。もちろん「冷害」もない。

農業をする人にとっては天国である.

・・・・・・・・・・・・

ホーチミン市の郊外にある大工場を持つ社長は「すぐ田舎に帰りたがるので困ります」とこぼしていた理由は明快に分かる。これほど豊かな生活をしているのに、わざわざ都会の喧噪に身を置く必要がないからだ。

今回のベトナム出張は具体的な目的があったが、環境の仕事をしている私としては、

1)   温暖化は素晴らしいことだ。北海道の農業の人の苦労とはまったく違う。また日本より遙かに南で熱帯に近いのに36℃、38℃といって夏に苦しむことなどない、

2)   メコンの恵みはたいしたものだ。定期的に氾濫し、栄養を運び、病気を退治してくれる.いわば、化学肥料と農薬をトラックで運んでくれるようなもので、それに加えて田んぼを痛めることもない、

3)   なぜ、東京のように異常な空間に住んでいる人が「生物多様性」とか「CO2削減」などと言っているのだろう.その人たちはメコンデルタに住めばよいのに・・・

・・・・・・・・・

私は10年前に「リサイクルしてはいけない」という書籍を出したが、その本の原題は「フランケンシュタインの子供たち」だった。

もしも、メコンデルタが私たちの理想郷であり、東京が無残な西洋文明の帰結なら、それはまさに「神に背いて怪物を創り、その怪物に反撃される人間」を思い起こさせるからだった。

東京に住んでいる人は、本当に心からCO2を出すことが悪いと思っているのだろうか? 生物は多様の方が良いと考えているのだろうか? それならなぜ東京などに住んでいるのだろうか?

なぜ、温暖化防止や生物多様性を熱心に説いている人は、東京に住んでいるのだろうか? また東京のビルを壊して森林にすることを主張していないのだろうか?

ホーチミンにはコンビニもあれば、歩道道路もある。オフィスもあるし、権力の中枢もある.でも人々は田園を望んでいる.すぐ仕事を辞めて田舎に帰ろうとする。

なぜ、日本の地方は「過疎」になるのだろうか? 日本人は「自然が良いと言いながら都市に住む」という統合失調症(昔の精神分裂症)で、ベトナムの人は健全な精神を持った人たちのようにも見える.

(平成221229() 執筆)