事実を正確に知るのは大変だが、いちおう、次のように仮定しておいてみたいと思います.
1) 日本の海上保安庁は常にその活動をビデオに収めていて、多くを「海上保安庁はどういう活動をしているか」を国民に知ってもらうために公開している(なんでもかんでも秘密という考え方ではなかった)、
2) 通常の省庁や自治体で起こることは、「マル秘」の設定がなければ役人は関係する国民に見せることがある、
3) 尖閣諸島の海域で中国漁船と日本の巡視艇が衝突した、
4) 巡視艇と中国漁船の衝突のビデオは一定期間、海上保安庁内で「誰でもみることができる」という状態であった。従って「マル秘」ではなく、まして「国家機密」ではなかった、
5) そのビデオを通常手段で入手した役人が、これは一般国民に知らせた方が良いと判断してネットで公開した、
6) その後、ビデオは「国家機密」であろうということになった(はっきりしないが)、
7) 中国人の船長は釈放されたが、それは那覇地検の判断であって、国が判断したことではないと公式に政府から発表された、
8) この時点で、事件は「国家規模のものではない」ということになり、通常事件になった、
9) ネットで公開されたのは那覇地検が通常事件として処理した後だった。
ビデオを公開した役人は、「機密漏洩」の罪で書類送検され、免職か退職すると報道されています。
この事件では、罪の重い方から言えば、
1) この事件をきっかけに一時、日中の首相、閣僚が相互に会うことすらできなかったのだから、尖閣諸島の衝突事件は「国家的事件」であった、
2) 従って、この事件を通常事件として処理した首相、官房長官を憲法に基づき逮捕すべきである、
3) この事件を通常事件として処理することを認めた検事総長を逮捕すべきである、
4) この事件を通常事件として処理した那覇検察の責任者か担当者を逮捕すべきである、
5) この事件のビデオを海上保安庁の中で自由に見ることができるようにした責任者か担当者を逮捕するべきである、
6) このビデオを公開した役人を逮捕するべきである、
という事になるでしょう.
実際には、この6つの内、6)、つまりもっとも罪の軽い人を逮捕し、書類送検したのですが、その理由は、「下の人ほど逮捕が簡単だから」と思います.
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つい先日、マスコミの偉い人と話をしていたら、
「海老蔵の事件はマスコミにとって美味しいのですよ。本当はもっと報道することがあるのですが、重要なことほど面倒です.それに比べると海老蔵の事件は興味があるし、なにを報道しても問題はおきませんからね。」
と言っていました。
確かに「イージー」という意味では「法の下の平等」などと言っていたら面倒ですから、力の無い人を集中攻撃していればそのうち、社会も忘れてしまうし、視聴率もあがるというわけです。
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すでに尖閣諸島の事件の記憶は薄れつつありますし、役人の書類送検をして、この事件の本質については「議論終わり!」とする計画なのでしょう.
ところで、他人の家の庭で子供が瀕死の重傷を負い、一刻も早く助けなければならないけれど、その家の大人は留守だという時に、通行人は何をすべきでしょうか?
他人の庭に無断で入れば「家宅侵入罪」で逮捕されます.
無断で入らなければその子供は死んでしまいます.
そこである通行人が庭に入り、子供を病院に連れて行って一命を取り留めたとします.その通行人は逮捕されるでしょうか?
もちろん逮捕されません。「小さい罪がより大きい社会的な貢献をすれば、罪は消える」というのが社会常識です.法律的にこれをどのように解釈できるのか、今度、弁護士さんに新年にお会いするので聞いてみたいとおもっています。
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今回の件は、前の大臣で社民党党首という公職にある福島議員が「衝突事件は漁船がぶつかったのか、巡視艇から衝突したのかわからない」と発言していたのですから、国民としてはビデオを見る必要がありました。
また、さらに今回公開されたビデオの他に、
1) 漁船の船員か船長が、巡視艇の人を海に投げ捨てた、
2) 海で助けを求めている人を銛(モリ)で突こうとした、
3) 漁船の船員は衝突後、笑っていた(計画的。驚いていない)、
などと言われています.だから、事実を知らせることを政府は未だに隠していることになります。
このような事から、尖閣ビデオを公開した人を「公務員の守秘義務」などという小さなことで書類送検したり免職したりするべきではないと私は思っています.
順序が違うということです。ビデオに出した人のことを議論していると本当に罪のある人が逃げるからです.
第一、「役所内で公開されている書類」というのを私は何度もコピーしてもらったことがあります。それは日常的に日本の役所で行われていることであり、「書類のコピーならよい」とか、「顔見知りの関係者だけに見せるならよい」などということも奇妙です.
政府も識者もマスコミも、まずこのあたりの事実を公表し、説明し、誠実さを示して欲しいと思いますし、国民もこの事件と機密のあり方について興味を失うと、「機密を厳密にして、公開する役人を厳罰の処せ」ということだけが残ります.
(平成22年12月20日 執筆)