近代の自然科学はいくつかの巨大な法則や原理原則を見いだしてきた。

その一つはニュートンの万有引力であり、全ての物体は質量のあるものを内部に引きつける力を持つ.

万有引力は何から来るのかはハッキリ分かっていないが、たとえば原子同士の結合力の余りかも知れない。でも、万有引力が存在すること自体は間違いの無いこととして受け止められている.

また別の一つはエントロピー増大である。全ての変化はエントロピーが増大する方向へと進む.

エントロピーはなぜ増大するのかはハッキリ分かっていないが、おそらく宇宙が膨張を続けているからだろう。その影響を受けて祇園精舎の鐘の音は拡がって元に戻ることはない。

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「循環型社会」(リサイクル)というのは、近代科学が築き上げてきたエントロピー増大と真っ向から反するものである.

科学にも間違いがある。しかし、間違いは新しい観測や理論によって修正されるものであり、希望や怖れ、幻想によって打ち消されるものではない。

近代科学が積み上げてきた法則や原理原則について、科学者は強い信念を持っているはずであった。仮に、ある集団が科学の体系に反することを始めても、それを科学者が支持することはないと確信していた。

現在でも「燃料が不要な動力機関(永久機関の一種)」なる発明が特許に申請されるが、科学者はその行為自体を批判することはないが、熱力学の理論に反する現象を注意深く見守ってきた。

そして、これまでは全ての永久機関が詐欺か錯覚だった。

しかし、科学技術立国を標榜する日本がいとも簡単に「循環型社会」なるものを支持し、それによってエントロピーを減少しうるとした。

通常なら科学者は「詐欺か錯覚」と考えて遠巻きにしているのだが、この時には支持した。

科学が否定された原因は「欲望」と「無知」であった。

鉄鉱石を地下から掘り出し、精錬し、輸送し、還元し、鉄板の形に成形する過程でエントロピーは急減する.そしてそれに倍するエントロピーの増大が地球に残る。

目の前にある飲み終わったペットボトルは、まだ使えるように見えるが、膨大な拡散エントロピーを持っていて、それを下げるのは容易ではない.

科学者にも、物質や製品が持っているエントロピーが見えなかったのだろう.

そして、リサイクルによるエントロピーの増大を隠蔽するために「LCA」という新しい学問的手法が用いられた。LCAに携わる学者は「計算したらそうなった」と言うだけで、近代科学の原理との齟齬については口をつぐんでいた。

LCAという手法自体は立派な学問であるが、それが導きだす結果は近代科学の法則に合致していなければならず、もし一致しなければその結果を厳しく吟味して、もしLCAが正しければ、科学の大系を変えなければならないからだ。

エントロピー増大の原理を覆すのは容易ではなく、もし循環型社会が現実のものになったら、その科学的進歩はノーベル賞どころではない。エントロピーが増大しない反応や行為を発見したことになるから、人類の文明は何をしても永続することになり、節約はまったく不要になるからだ。

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万が一・・・と思って私は2006年に循環型社会とエントロピーの増大について検証し、「循環」は「使い捨て」に対して、エントロピーは8倍程度増大している事が分かった。

「循環型社会」の登場によって、近代科学はもろくも社会の熱狂に負けたのであるが、それはヒットラーのナチスの「優生学」や、スターリン共産主義時代の「遺伝学」に相当する衝撃でもあった。

(平成221130日 執筆)