「愛用品の5原則」という一節が10年ほど目に出した「エコロジー幻想」という本の中にある。

偶然の事であるし、また幸運でもあったが、その一節が国語学者の目にとまり、高等学校の現代国語の教科書に収録され、それは私の生涯の思い出になった。

・・・・・・人間は環境のために生きるわけではない.物を大切にするために人生を犠牲にしなくてもよい。環境は十分に余裕があるし、資源も無くなる訳ではない。

でも、人間は「物だけ」では幸福が味わえない。「物」に「思い出」や「心」がプラスされて初めて人間の友となる・・・・・・そんな内容だった。

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最近の私の愛用品の筆頭はこれだ。

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何の変哲もないメガネとメガネケースだが、やや大げさに言えば晩年の私の人生を変えてくれるだろう.これは「読書用のメガネとメガネケース」だ。

新幹線に乗る.しばらくして私はカバンの中からおもむろにメガネケースを取りだし、そこから小さなメガネを取り出す.そしてかけているメガネをそっとケースにしまう.

次にカバンから読みたくて仕方がなかった本を取り出すのだ。今日ならまずは「清朝とはなにか」である。分厚い本で字は細かい.でもこの本の中には私が知りたいことがギッシリ詰まっている.

少し前なら絶対に読まなかっただろう.字が小さくて読みにくく、スピードが上がらないのでイライラしてしまうからだ。

新幹線の時間は夢のように過ぎ、到着地の近くで私はふと我に返ってメガネをとる.「さあ、頑張るぞ!」

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若い頃はどんどんと本を読みふけった。でもその時には字はハッキリと見えたからだった。でも、もうあきらめた。年には勝てない・・・

ところが、どうしたことだろう! とある知り合いの眼鏡屋さんが「読書用メガネ」をお送りいただいて、それをかけてみたら、数10年も忘れていたあのクリアーな字が私の目に飛び込んできたのである.

私は年を取って目が弱くなったから読書が辛くなったのではなかった。自分が勝手に「メガネは一つ」と思い込んで、同じメガネで何でもかんでも見ようとしたのが間違いだったのだ。

メガネは完全に私の目に合っているし、特に両目でバランスよく見ることができる。しかもケースのデザインも素晴らしい。

ほんの小さいことでも人間は錯覚にとらわれて自分の人生を小さくしているものだ。たった一つの小さいメガネだが、心優しい人が作っていただいたおかげで私の人生はまた若い時代に戻ることができた

そしてまた一つ、私には愛用品がうまれ、それを友として私の新しい人生が始まる.

(平成221011() 執筆)