男の学生というのはまだ少年の面影を残していて、危なっかしい。学問的な力もまだまだであるし、第一、精神的にも安定していない。

そんな学生と一つの釜のメシを食べながらの研究室生活を送ると、第二の親父のような気持ちになる。

だから、教え子の結婚式ほどよいものはない。招待はされるけれど披露宴ではつい、席を立って挨拶に行き、職場の上司に、「鍛え方が足りなかったような気もしますが、どうぞよろしく」と挨拶をしてしまう。

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札幌から空路、新幹線、そして最後は単線のローカル線を乗り継いで、結婚式にやってきた。

彼の同窓生と話し、鏡割りの日本酒を升でのみ、ご両親とお話をした。どちらかというと「職業モード」で移動してきた私の心もだんだんと「家庭モード」に代わり、スピーチの内容も変えようと思うようになった。

そして順番が来た頃には、酔っていてろれつが回らないか心配だったが、お嫁さんが彼をどのように見ていたかを知って、ある唄を思い出した。

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・・・一人笑ろうて暮らそうよりも二人涙で暮らしたい・・・

「涙」という言葉が入るので、お祝いの席ではどうかなと思ったけれど、このまま話をした。

人間とは不思議なものである。一人の方が気楽だし、自分の思うとおりできる。自分の好きなテレビを見て笑えばよい。二人ならチャンネル争いも起きるだろう.

でも、やはり人間には、連れ合いがいて、家庭があって、悲しみと喜びがあって人生なのだろうと思う。

それをはなむけにして彼の同窓生と懐かしい話をしながら、帰路についた.

(平成22105日 執筆)